・・・ 余は評家ではない。前段に述べたる資格を有する評家では無論ない。したがって評家としての余の位地を高めんがためにこの篇を草したのではない。時間の許す限り世の評家と共に過去を研究して、出来得る限りこの根拠地を作りたいと思う。思うについては自・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
・・・ありのままの本当をありのままに書く正直という美徳があればそれが自然と芸術的になり、その芸術的の筆がまた自然善い感化を人に与えるのは前段の分解的記述によってもう御会得になった事と思います。自然主義に道義の分子があるという事はあまり人の口にしな・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・ ここいらで前段に述べた事を総括しておいて、それから先へ進行しようと思います。吾々は生きたいと云う念々に支配せられております。意識の方から云うと、意識には連続的傾向がある。この傾向が選択を生ずる。選択が理想を孕む。次にこの理想を実現して・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
出典:青空文庫