・・・食事時間前の前菜にはなおさらである。 三番目「仇討輪廻」では、多血質、胆汁質、神経質とでも言うか、とにかく性格のちがう三人兄弟の対仇討観らしいものが見られる。これなどももうひと息どうにかすると相当おもしろく見られそうな気がしたが、現在の・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・入口に近い定席につくや否や、彼は、押えきれないらしい大きな倦怠から、うんと伸びをした。前菜を捧げた給仕に、苦笑し乍ら呟くのが聞えた。「ハ、ハ、眠たいです」 もう一人、縞服の男が来て、食卓についた。二人、四つ五つ離れた各々の卓子から会・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
・・・衝立の陰から、前菜の皿を持って給仕が現れた。辞儀をする。腸詰やハムなどの皿を出す。若いアメリカ人はそれを一瞥したが、フォークを取り上げようともせず、いきなり体じゅうで大きな大きな、涙の滲み出すように大きな伸びをした。「――ああ、ねぶたい・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
出典:青空文庫