・・・五十円とはどこから割り出した勘定だろうと一寸考えて、なるほど、罰金の額から、印刷費の残りを引いたのが五十円だなとわかると、おれは正直な話、噴きだしたくらいだ。阿呆らしくて、怒りも出来なかったのだ。それに、おれの方にも、案外呶鳴り込みに行けな・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・一番先の細い処から切れる訳だからそれを竿の力で割出していけば、竿に取っては怖いことも何もない。どんな処へでもぶち込んで、引かかっていけなくなったら竿は折れずに糸が切れてしまう。あとはまた直ぐ鉤をくっつければそれでいいのです。この人が竿を大事・・・ 幸田露伴 「幻談」
・・・その自分の好みから父さんは割り出して、袖子の着る物でも、持ち物でも、すべて自分で見立ててやった。そして、いつまでも自分の人形娘にしておきたかった。いつまでも子供で、自分の言うなりに、自由になるもののように…… ある朝、お初は台所の流しも・・・ 島崎藤村 「伸び支度」
・・・遠い恒星の光が太陽の近くを通過する際に、それが重力の場の影響のために極めてわずか曲るだろうという、誰も思いもかけなかった事実を、彼の理論の必然の結果として鉛筆のさきで割り出し、それを予言した。それが云わば敵国の英国の学者の日蝕観測の結果から・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・ニュートンがデカルト派の形而上学的宇宙観から割り出した物理学を離れて Hypotheses non fingo という立場からあのような偉業をしたのもそうである。Huyghens, Young が微粒子説を打破したのもファラデーが acti・・・ 寺田寅彦 「科学上における権威の価値と弊害」
・・・これは動物学者が人為的に勝手な理屈から割り出してきめた分類によるからである。西洋人も日本人も同じ人間だという。しかしA博士の研究によると、日本人は血管の分布のしかただけから見ても明らかに西洋人とちがった特徴をもっているそうである。言わば違っ・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・稲妻が光る度に稲が千石ずつ実るという云い伝えがあるが、どういう処から割り出したものであろう。近頃海外では農芸に電気を応用する事がようやく盛んになろうとしているから、稲妻の伝説と何か故事つけが出来そうである。 九・・・ 寺田寅彦 「歳時記新註」
・・・もっともこれは全く算盤から割り出した方法だそうではあるが。「無礼講」という言葉が残っており、西洋でも「エプリルフール」という事がある。 あれほど常識的な英国にでもわれわれに了解の出来ないほど馬鹿げた儀式が残っているようであるが、それ・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・なんでも紙撚だったか藁きれだったか忘れたが、それでからだのほうぼうの寸法を計って、それから割り出して灸穴をきめるのであるが、とにかく脊柱のたぶん右側に上から下まで、首筋から尾びていこつまでたしか十五六ほどの灸穴を決定する。それに、はじめは一・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・しているのに反して、停車場というものの位置は気象的条件などということは全然無視して官僚的政治的経済的な立場からのみ割り出して決定されているためではないかと思われるからである。 それはとにかく、今度の風害が「いわゆる非常時」の最後の危機の・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
出典:青空文庫