・・・そして車の中には桜と汐干狩の時節には、弁当付往復賃銭の割引広告が貼り出される。 * 放水路の眺望が限りもなくわたくしを喜ばせるのは、蘆荻と雑草と空との外、何物をも見ぬことである。殆ど人に逢わぬことである。平素市・・・ 永井荷風 「放水路」
・・・ いろいろの心持を感じながら歩いていて、或る通りのわきに出たら、そこの映画館の方で頻りにベルが鳴りつづけている。割引のしらせである。 思いついて、私は一つの広い改正道路を横切って、銀映座の前へ行った。雨傘をさして外套の襟などを立てた・・・ 宮本百合子 「映画」
・・・千部七五〇法というような割引率で、数万を頒布している」。 ジイドの「感覚の玄人」の腕に魅せられた人々は、今猶上に引いた序文の言葉の魔術や、八方からの反撃にかかわらずジイドが飽くまで真理を追究しようとしている態度という架想に陥って、人類の・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 割引切符平均価格。。エム・オー・エス・ペー・エス劇場 九十二・五カペイキ革命劇場 六十八カペイキ諷刺座 九十六・六カペイキ・・・ 宮本百合子 「三月八日は女の日だ」
・・・ 工場委員会は、各職場へ、特別婦人デーのための芝居割引券をどっさり配った。ニーナはそれを貰わなかった、というのは、今夜食糧労働者組合クラブに、婦人デーの催しものがある。ナターシャをさそって、ニーナはそっちへ行くつもりなのだ。 電車の・・・ 宮本百合子 「ソヴェト同盟の三月八日」
・・・ ――割引なしか? ――なしだ。だから、行った当座は高いのに閉口して、舞台から遠いところを買った。観えはするが科白がわからない。降参して、しまいには段々近くまで進出した。 ――電話かけて切符を届けさせることは、出来ないのか?・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・夜勤料は四割引、十時間で六時間分である。それで体をこわすような労働強化はやらぬことときめている。文選十六人は彼を入れすぐ立ち、六時の夕飯三十分の休みに、文選十六人はベン当箱をもって一つところに集り、きめた以上の仕事はしないこと、きめた以上は・・・ 宮本百合子 「大衆闘争についてのノート」
・・・赤や白のビラがコンクリイトの上に踏躙られた活動写真館の入口に、「只今より割引」という札が出ていた。七八人の男女が表に出ている写真を看ていた。通りすぎようとすると、友達が、「一寸」と私の腕を控えた。「この麻雀というの、こな・・・ 宮本百合子 「茶色っぽい町」
・・・ 割引電車のように込むエレベータアにつめこまれ、五階でおろされる。紅白幕で飾った展覧会の入口から、マア、これはひどい勢いだ。小学生、小さい女学生、印バンテンの労働者、お仕着せを着たどっかの小僧さんの一団までをまぜて、見物人は犇々太い丈の・・・ 宮本百合子 「「モダン猿蟹合戦」」
出典:青空文庫