・・・敷地の買上、その代価の交渉、受負師との掛引、割当てた寄附金の取立、現金の始末まで自分に為せられるので、自然と算盤が机の上に置れ通し。持前の性分、間に合わして置くことが出来ず、朝から寝るまで心配の絶えないところへ、母と妹とが堕落の件。殊に又ぞ・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・われは隣組常会に於いて決議せられたる事項にそむきし事ただの一度も無之、月々に割り当てられたる債券は率先して購入仕り、また八幡宮に於ける毎月八日の武運長久の祈願には汝等と共に必ず参加申上候わずや、何を以てか我を注意人物となす、名誉毀損なり、そ・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・ その時に一つ困った事は、私がたとえばある器物か絵かに特別の興味を感じて、それをもう少し詳しくゆっくり見たいと思っても、案内者はすべての品物に平等な時間を割り当てて進行して行くのだから、うっかりしているとその間にずんずんさきへ行ってしま・・・ 寺田寅彦 「案内者」
・・・しかし映画の観客は各自の想像によってそれぞれの映像に相応する質量を付加し割り当てながら見て行く。それで、もしも映画のトリックによって一人の男が三井寺の鐘を引きちぎって軽々と片手でさし上げれば、その男は異常な怪力をもっているように見えるのであ・・・ 寺田寅彦 「映画の世界像」
・・・その上に肝心な研究費はいつでも蟻の涙くらいしか割当てられない。その苦しい世帯を遣り繰りして、許された時間と経費の範囲内で研究するにしても、場合によってはまた色々意外な拘束の起ることが可能である。例えば若い教授または助教授が研究している研究題・・・ 寺田寅彦 「学問の自由」
・・・それで自然にごちそうのいい部分は三毛のほうに与えられて、残りの質の悪い分け前がいつでも玉に割り当てられるようになっていた。しかし不思議なものでこの粗野な玉の食い物に対する趣味はいつとなしに向上して行って、同時にあのあまりに見苦しいほどに強か・・・ 寺田寅彦 「子猫」
・・・ 二十歳代の青年期に蜃気楼のような希望の幻影を追いながら脇目もふらずに芸能の修得に勉めて来た人々の群が、三十前後に実世界の闘技場の埒内へ追い込まれ、そこで銘々のとるべきコースや位置が割り当てられる。競技の進行するに従って自然に優勝者と劣・・・ 寺田寅彦 「厄年と etc.」
・・・管弦楽の作曲者の重要な仕事の一つはいわゆるインストルメンテーションであって、すなわち甲乙二つのパートが並行するとして、そのいずれをいずれの楽器に割り当て受け持たせるかによって全体の効果には著しい差違を生ずるのである。連句でも、たとえば去来の・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・軍部がその部落に二百円の強制献金を割り当てた。自作農らはついに共同墓地の松の木を伐ってそれを出すことに決議したが、昭和二年の鉱山閉鎖以来共同植付苅入れをしている「やま連」と呼ばれる農村の集団的な労働者がそれをきっかけに、未組織のK部落におけ・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・から思想を抽象するのではなく、逆に、思想を人に割当て、或る概念の偶像を拵らえようとしていたのだとも云えるだろう。 女性に就て云っても、或る時には、感情的、理智的又は智的、無智等と云う大まかな、蕪雑な批評で安んじるような傾向が決して無いと・・・ 宮本百合子 「概念と心其もの」
出典:青空文庫