・・・けれども仕方なく力一杯にそれをたぐり寄せてそれからあらんかぎり上の方に投げつけました。すると目がぐるぐるっとして、ご機嫌のいいおキレさままでがまるで黒い土の球のように見えそれからシュウとはしごのてっぺんから下へ落ちました。もう死んだとネネム・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・日本のような社会の歴史をもったところでは、この矛盾のひどい中で悪に抵抗して力一杯生きようとしているけなげな若い女性のためには、男の人たちが人間的同情にとんだ態度であってほしいと思います。さっきの「進歩」について云ったように、いくら一握りの青・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・とにかく力一杯にやって来、終に身を賭して自己に殉じてしまった心は、私に人生の遊戯でないことを教え、生きて居る自分に死と云うものの絶対で、逆に力を添える。 自分の一生のうちに、此事は、大きな、大きな、関係を持って居ることだ。 私は、死・・・ 宮本百合子 「有島武郎の死によせて」
・・・一太は一番低そうな枝を目がけ力一杯ガタガタ三股でかき廻した。弾んで、イガごと落ちて来た。ころころ一尺ばかりの傾斜を隣の庭へ転げ込みそうになる。一太は周章てて下駄で踏みつけた。一つの方からは大抵色づいた栗が二つ出た。もう一つのイガの青い方から・・・ 宮本百合子 「一太と母」
・・・において作者は、力一杯に今を生きることを人間の真実の姿として描こうとしているのであるが、それも、分に応じてその人の気質なりに生一本に生きるというだけでは、やはり人間行動の社会的な評価にまで迫った現実の文学的追求とはなり得ない。同じ作者が、数・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ともかく長谷川さんは御自分の生涯を力一杯に終えられました。私たちはその努力に対して女性として敬意を惜しまない心持です。〔一九四一年九月〕 宮本百合子 「積極な一生」
・・・私は、シャツ一枚の運転手や長い脛を力一杯踏ばっても猶よろよろしながら片手で大切そうに鞄を押える俄車掌の姿を、憐憫と憤怒のまじりあった感情で見つめるのであった。 私のその視線が、揺れながら進行するバスの中で一つのものに止った。ステップに近・・・ 宮本百合子 「電車の見えない電車通り」
・・・ら脱けようとしている特異な江波の生命の溢れた姿態の合間合間が間崎をとらえる心理として描かれており、皮膚にじっとりとしたものを漲らせつつも作者の意識は作品としてその虚々実々を執拗に芸術として描き出そうと力一杯の幻想も駆使している。 ちょう・・・ 宮本百合子 「文学と地方性」
出典:青空文庫