・・・一面には純詩的な茶の湯も勿論可なれど、又一面には欧風晩食の如く、日常の人事に茶の湯の精神を加味し、如何なる階級の人にも如何なる程度の人にも其興味と感化とを頒ちたいものである、古への茶の湯は今日の如く、人事の特別なものではない、世人の思う・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・ところどころに少年の独創も加味されていました。第一に、襟です。大きい広い襟でした。どういうわけか広い襟を好んだようです。その襟には黒のビロオドを張りました。胸はダブルの、金ボタンを七つずつ、きっちり並べて附けました。ボタンの列の終ったところ・・・ 太宰治 「おしゃれ童子」
・・・という言葉使いには、多少、方言が加味されているような気がする。お百姓の言葉だ。うるめの灰を打たたきながら「此筋は銀も見知らず不自由さよ」と、ちょっと自嘲を含めた愚痴をもらしてみたところではなかろうか。「此筋」というのは、「此道筋と云わんが如・・・ 太宰治 「天狗」
・・・ 以上が先生の文章なのであるが、こうして書き写してみると、なんだか、ところどころ先生のたくみな神秘捏造も加味されて在るような気がせぬでもない。豚の眼が、最も人間の眼に近似しているなどは、どうも、あまり痛快すぎる。けれども、とにかくこれは・・・ 太宰治 「女人訓戒」
・・・ それから小学校では少し無理かも知らないが、科学の教え方に時々歴史的の色彩を加味するのも有益である。勿論科学全体の綜合的歴史はとても教えることは出来ないが、ある事項に関する歴史でよろしい。たとえば太古では世界は地、水、火、風の四からなり・・・ 寺田寅彦 「研究的態度の養成」
・・・この磧の涼味にはやはり母の慈愛が加味されていたようである。 高知も夕なぎの顕著なところで正常な天気の日には夜中にならなければ陸軟風が吹きださない。それに比べると東京の夏は涼風に恵まれている。ずっと昔のことであるが、日本各地の風の日変化の・・・ 寺田寅彦 「涼味数題」
・・・先生は海鼠腸のこの匂といい色といいまたその汚しい桶といい、凡て何らの修飾をも調理をも出来得るかぎりの人為的技巧を加味せざる天然野生の粗暴が陶器漆器などの食器に盛れている料理の真中に出しゃばって、茲に何ともいえない大胆な意外な不調和を見せてい・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・、いやしくも文明の教育を受けたる紳士が婦人に対する尊敬を失しては生涯の不面目だし、かつやこれでもかこれでもかと余が咽喉を扼しつつある二寸五分のハイカラの手前もある事だから、ことさらに平気と愉快を等分に加味した顔をして「それは面白いでしょうし・・・ 夏目漱石 「自転車日記」
・・・けれども諸君のためを思い、また社のためを思い、と云うと急に偽善めきますが、まあ義理やら好意やらを加味した動機からさっそく出て来たとすればやはり幾分か善人の面影もある。有体に白状すれば私は善人でもあり悪人でも――悪人と云うのは自分ながら少々ひ・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・或る人は真の芸術を理解させるようにしなければならぬという対策を提案し、或る人はレビュー劇場が商売とは云いながらすこしは宣伝に公徳心を加味して欲しいと要求しておられる。 これ等の記事を読んで私は、教育家が或る程度固定した頭で現実に対する処・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
出典:青空文庫