一 加州石川郡金沢城の城主、前田斉広は、参覲中、江戸城の本丸へ登城する毎に、必ず愛用の煙管を持って行った。当時有名な煙管商、住吉屋七兵衛の手に成った、金無垢地に、剣梅鉢の紋ぢらしと云う、数寄を凝らした・・・ 芥川竜之介 「煙管」
・・・の材料も、加州藩の古老に聞いた話を、やはり少し変えて使った。前に出した「虱」とこれと、来月出す「明君」とは皆、同じ人の集めてくれた材料である。○同人は皆、非常に自信家のように思う人があるが、それは大ちがいだ。ほかの作家の書いたものに、帽・・・ 芥川竜之介 「校正後に」
・・・――「加州家の御先祖が、今の武生の城にござらしった時から、斧入れずでの。どういうものか、はい、御維新前まで、越前の中で、此処一山は、加賀領でござったよ――お前様、なつかしかんべい。」「いや、僕は些とでも早く東京へ行きたいんだよ。」「お若いで・・・ 泉鏡花 「栃の実」
・・・この面倒な法は加州やなんぞのような国に行くと、鮎を釣るのに蚊鉤など使って釣る、その時蚊鉤がうまく水の上に落ちなければまずいんで、糸が先に落ちて後から蚊鉤が落ちてはいけない、それじゃ魚が寄らない、そこで段細の糸を拵えるんです。どうして拵えます・・・ 幸田露伴 「幻談」
・・・ 昭和六年の秋米国各大学における講演を頼まれて出張し、加州大学、スタンフォード大学、加州及びマサチュセッツのインスチチュート・オブ・テクノロジーその他で、講義、あるいは非公式談話をした。帰路仏国へ渡ってパリでも若干の講演を試みた。三月九・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
出典:青空文庫