・・・前の晩、これを買う時に小野君が、口をきわめて、その効用を保証した亀の子だわしもある。味噌漉の代理が勤まるというなんとか笊もある。羊羹のミイラのような洗たくせっけんもある。草ぼうきもあれば杓子もある。下駄もあれば庖刀もある。赤いべべを着たお人・・・ 芥川竜之介 「水の三日」
・・・ 六 干支の効用 去年が「甲戌」すなわち「木の兄の犬の年」であったからことしは「乙亥」で「木の弟の猪の年」になる勘定である。こういう昔ふうな年の数え方は今ではてんで相手にしない人が多い。モダーンな日記帳にはその年・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・この簡単な言葉に迷わされて感覚というものの基礎的の意義効用を忘れるのはむしろ極端な人間中心主義でかえって自然を蔑視したものとも言われるのである。 寺田寅彦 「物理学と感覚」
・・・こういうものが、うちの机の前に坐ったままで聞かれるのはやはりラジオの効用だと思う。 寺田寅彦 「ラジオ雑感」
・・・徳育の本意なるべきに、全編の文面を概すれば、むしろ心理学の解釈とも名づくべきものにして、読者をしておよそ人心の働を知り、その運動の様を了解せしむるには足るべしといえども、これによりて徳心の発育を促すの効用いかんにおいては、いささか足らざるも・・・ 福沢諭吉 「読倫理教科書」
・・・如何程美くしいものでも、其が彼女にとって、何等かの実際的効用を与えなければ、其は只彼女等特有の、形容詞たっぷりの讚辞を呈された許りで通り過ぎられてしまいますでしょう。 だから、買物を仕ようとしても、決して只珍らしいとか美くしいとか云う丈・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・階級の文学を、組合主義、目先の効用主義一点ばりで理解するように啓蒙されて来た人があるとすれば、その人は街の角々に貼り出されていた矢じるし目あてに機械的に歩かせられて来ていたようなものだから、一夜の大雨ですべての矢じるしが剥がれてしまったある・・・ 宮本百合子 「しかし昔にはかえらない」
・・・の主張するところは、文学についての新しい社会的な理解が持ち来している、作品の世界観の問題、社会的効用の問題、形式が内容に対して従属的なもののように見られている点等を非難して、それらの束縛、圧迫から解放された新興の芸術派をうち立てようとすると・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・文化を人民の当然の共有財と理解してその民主的効用を求めないなら、いますべての男女学生が働きながら学べる教育のシステムを要求していろいろ骨を折っている意味もはっきりしなくなってしまいます。 インフレーションは勤労者の生活をおしつけていると・・・ 宮本百合子 「討論に即しての感想」
・・・アンダスンの詩人らしい気象、アメリカの効用主義的社会通念に対する反抗が主題となっていて、文章もリズムを含んで感覚的で、一見主観的な独語のなかに客観的な批判をこめて表現する作風など、ドライサアとは全く異っていて、近代の心理的手法である。 ・・・ 宮本百合子 「文学の大陸的性格について」
出典:青空文庫