・・・ 骨にも動脈にも触れちょらん。如何して此三昼夜ばッか活ちょったか? 何を食うちょったか?」「何も食いません。」「水は飲まんじゃったか?」「敵の吸筒を……看護長殿、今は談話が出来ません。も少し後で……」「そうじゃろうそうじゃろ・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・枕につけた片方の耳の奧では、動脈の漲る音が高く明らかに鳴っている。 また肺炎かと思う。これまで既に二度、同じ病気に罹った時分の事も思い出す。始めての時はまだ小学時代の事で、大方の事は忘れて仕舞った。病気の苦しみなどはまるきり忘れてしまっ・・・ 寺田寅彦 「枯菊の影」
・・・ 生理学の初歩の書物を読んでみると、皮膚の一部をつねったりひねったりするだけで、腹部の内臓血管ことにその細動脈が収縮し、同時に筋や中枢神経系に属する血管は開張すると書いてある。灸をすえるのでも似かよった影響がありそうである。のみならず、・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・これらの動物は、神経を切られたり、動脈へゴム管を挿されたり、病菌を植付けられたり、耳にコールタールを塗って癌腫の見本を作られたりする。 谷を距てた上野の動物園の仲間に比べるとここのは死刑囚であろう。 動物をいびり殺した学士が博士にな・・・ 寺田寅彦 「病院風景」
・・・ 何故かって、タンクと海水との間の、彼女のボットムは、動脈硬化症にかかった患者のように、海水が飲料水の部分に浸透して来るからだった。だから長い間には、タンクの水は些も減らない代りに、塩水を飲まねばならなくなるんだ。 セイラーが、乗船・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
・・・ 今になって見ると、その不自由な生活の終りに近くなってからのことであるが、私は心臓が弱って氷嚢を胸に当てていないと、肺動脈の鬱血で咳が出て苦しい状態にあった。 そういう或る日、塵くさい木造建物の二階の窓際で髪を梳かし、少しさっぱりし・・・ 宮本百合子 「生活の道より」
・・・が結局「どんなに善意に解釈しても、ソヴィエットの社会主義的進化の実状に対するトロツキーの思想と思索方法とが全く動脈硬化的な抽象論を一歩も出ていない」という翻訳者として意見を表明しておられる。『改造』では、更に猪俣津南雄氏の「トロツキーの・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・そこに列の生きて脈搏つ真の動脈がひそめられている。その脈搏は生きものだから、事情によっては搏ちかたも変って来る。列というものは元来が案外動的な本質をふくんでいるのである。 それやこれやから、国民生活の中に列が多種になり、長くなり、どっさ・・・ 宮本百合子 「列のこころ」
出典:青空文庫