・・・今度はこんなことでおやじに勘弁してもらおう」と、私は父とは従妹の、分家のお母さんに言った。「ほんとにそう思いますか? ほんとにそうしておあげなさいよ。あなたのとことわたしのとこくらいのものですよ、本家分家があんな粗末な位牌堂に同居してる・・・ 葛西善蔵 「父の葬式」
・・・「御気に触わったら御勘弁。一ツ差上げましょう」と杯を奉まつる。「草葉の蔭で父上が……」とそれからさわりで行くところだが、あの時はどうしてあの時分はあんなに野暮天だったろう。 浜を誰か唸って通る。あの節廻しは吉次だ。彼奴声は全たく美い・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・サア家へ帰れ、今夜こそおれは勘弁ならんのだ、どうしてもお前さんに聞いてもらうことがあるんだ』と私の手を取ってグイグイ路地の方へ引っ張って参るのでございます。 私も酔っぱらいと思いまして『よしよし、サア帰ろう、なんでも聞こう』と一しょに連・・・ 国木田独歩 「女難」
・・・ お源は負けぬ気性だから、これにはむっとしたが、大庭家に於けるお徳の勢力を知っているから、逆らっては損と虫を圧えて「まアそれで勘弁しておくれよ。出入りするものは重に私ばかりだから私さえ開閉に気を附けりゃア大丈夫だよ。どうせ本式の盗棒・・・ 国木田独歩 「竹の木戸」
・・・もしそうだったら勘弁してくれたまえ。」「ム。ハハハ。ナニ、ちょうど、話しに来ようと思っていたのサ。」 主客の間にこんな挨拶が交されたが、客は大きな茶碗の番茶をいかにもゆっくりと飲乾す、その間主人の方を見ていたが、茶碗を下へ置くと、・・・ 幸田露伴 「鵞鳥」
・・・いと思っても、工合よく思い当るものが無いので、仕方なしに裏庭の圃のジャガイモを塩ゆでにして、そして御菓子にして出しました、といったような格でありまして、まことに智恵の無い御はずかしい事でありますが、御勘弁を願います。 さてその智恵の無い・・・ 幸田露伴 「馬琴の小説とその当時の実社会」
・・・些少にはござりますれど、御用を御欠かせ申しましたる御勘弁料差上げ申しまする。何卒御納め下されまして、御随意御引取下されまするように。」と、利口に云廻して指をついて礼をすると、主人も同時に軽く頭を下げて挨拶した。 すると「にッたり」は・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・「決して御客様方の人格を疑うような訳ではありませんが、これも職務で御座いますからどうか悪しからず御勘弁を願います」と云う。こう云われてみると私はますます弱ってしまうのであった。私は恐縮して監督と警官に丁寧に挨拶して急いでそこを立去った。別の・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ 五 善ニョムさんは、もう勘弁出来なかった。麦の芽達は、無惨に踏みちぎられて、悲鳴をあげてるではないか。善ニョムさんは、天秤棒をふりあげて、涙声で怒鳴った。「ど、どちきしょめ!」 断髪の娘は、不意に、天秤棒で・・・ 徳永直 「麦の芽」
・・・「商売なら勘弁してやるから、金だけ貰って当り障りのない事を喋舌るがいいや」「そう怒っても僕の咎じゃないんだから埓はあかんよ」「その上若い女に祟ると御負けを附加したんだ。さあ婆さん驚くまい事か、僕のうちに若い女があるとすれば近い内・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
出典:青空文庫