・・・男の方と云うものは、写真一枚と手紙一本とで勝手に扱うことが出来ますの。男心と云うものはそうしたものでございますからね。Maupassant が notre cur と申した、その男心でございますね。(男の呆れて立ち竦・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「最終の午後」
・・・西向きの一室、その前は植込みで、いろいろな木がきまりなく、勝手に茂ッているが、その一室はここの家族が常にいる室だろう、今もそこには二人の婦人が…… けれどまず第一に人の眼に注まるのは夜目にも鮮明に若やいで見える一人で、言わずと知れた妙齢・・・ 山田美妙 「武蔵野」
・・・親方に金出さそうと思うたかて、勝手の病気やぬかしてさ。鐚銭一文出しやがらんでお前、代りに暇出しやがって。」「そうか、道理で顔が青いって。」「そうやろが。」「そしてこれから何処行きや?」「何処って、俺に行くとこあるものか。母屋・・・ 横光利一 「南北」
・・・「それなのにわたくしは一人でいるのが勝手なのでございます。これから内へ帰りましても、わたくしはやっぱり一人でいることが多いのでございます。」 フィンクは「お内はどこですか」と云おうと思ったが言う暇がなかった。女が構わずに語り続けるからで・・・ 著:リルケライネル・マリア 訳:森鴎外 「白」
出典:青空文庫