・・・とくに社会を皮相からみたときには、いつもそれだけが支配力をもつような政治・経済の力に抗して、文学の独特な価値を肯かせようとして、ほかの仕事とは違う、違うと、ますます手足の萎えた状態に自身を追いこんだ。勤労階級と、文学が遊離してきた原因も、こ・・・ 宮本百合子 「ある回想から」
・・・ アルバイトをとおして学生は勤労者化しつつある。アルバイトをとおして、学生の小市民性は危機にさらされてもいる。ここにこそ具体的な自我と自意識の発展と崩壊のテストがある。もし、そんな年より相手に議論しても大人気ないと判断したのなら、それだ・・・ 宮本百合子 「生きつつある自意識」
・・・社会のために行われている男女の勤労というものの価値が時間と金にだけ換算される時代がすぎて、もっと人間の社会生活の組織という点から高く評価されるようになれば、婦人の職業も、もっと人間的生活と統一したものとして改善されてゆくと信じます。〔一・・・ 宮本百合子 「生きるための協力者」
・・・社会的な勤労に結ばれている女は、女同士のいやさもきつく感じている半面で、女同士の友情を営む可能をはぐくまれている。自分たち女というもののこの社会でのありようというものが、働いている女にはまざまざとした分りかたで分って来る。生きて行く場面で互・・・ 宮本百合子 「異性の間の友情」
・・・業者のあふれたアメリカの子供、牛乳業トラストが市価つり上げのため原っぱへカンをつんで行って何千リットルという牛乳をぶちまけ、泥に吸わせ、そのために自分たちの口には牛乳が入らないでウロついているアメリカ勤労階級の子供らは、亀のチャーリーにどん・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・ いまの日本に特別つよくあらわれているそれらの困難については誰しも十分知っているけれども、勤労する人々の生活にとっては更にもう一つ深刻な問題がある。それは時間の問題である。「時間は人間成長の箱である」そういう有名なマルクスの言葉があ・・・ 宮本百合子 「いのちの使われかた」
・・・ 本当に深く人生を考えて見れば、今の社会に着物一つを問題にしてもやはり決して不可能ではない未来の一つの絵図として本当に糸を紡いで織ったり染めたりしている紡績の労働組合が強くなって勤労者全員のための衣料について積極的に作用するようになった・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・彼は、年こそ六十にもなっているが、インガの勤労者としての価値、及び解放された女がどうでなければならないかという一般の原理に対しては、いつも公平な立場で、社会的に理解し先進的な見解を失わない男である。「――彼女がどうだっていうんだ? 仕事・・・ 宮本百合子 「「インガ」」
・・・ 広場の土は数十万の勤労者の足に踏みしだかれ、ポコポコになって、昼間の熱気を含んでいる。ところどころに急設された水飲場の水道栓から溢れる水が、あたりの砂にしみている。河の方から吹く風は爽かだ。 広場に向って開いているラジオ拡声機から・・・ 宮本百合子 「インターナショナルとともに」
・・・まことに英雄的生活が試練と苦悩と精力と勤労とにおいておもに偉大であったことは、私たちの勇気を鼓舞し私たちをふるい立たせます。憐れなる悩める者も誠実な勇気と努力とをもってすればついには何者かになり得るのです。偉大な人々の悲劇的生活は私たちの慰・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
出典:青空文庫