・・・「勲章でございましょう。銀の勲章でございましょう。これから二つ目の横町を右へお曲がりになる所の角へお持ちになりますと。」「なんだい、それは。その角に持って行ってどうするのだい。」「質店でございます。勲章なら、すぐに十マルクは御用立て・・・ 著:ディモフオシップ 訳:森鴎外 「襟」
・・・その頃始めて国の聨隊が出来て、兵隊や将校の姿が物珍しく、剣や勲章の目につくうちは好かったが、だんだん厭な事が子供の目に見えて来た。日曜に村の煮売屋などの二階から、大勢兵隊が赤い顔を出して、近辺の娘でも下を通りかかると、好的好的などと冷かした・・・ 寺田寅彦 「枯菊の影」
・・・自分は教会の門前で柩車を出迎えた後霊柩に付き添って故人の勲章を捧持するという役目を言いつかった。黒天鵞絨のクションのまん中に美しい小さな勲章をのせたのをひもで肩からつり下げそれを胸の前に両手でささげながら白日の下を門から会堂までわずかな距離・・・ 寺田寅彦 「B教授の死」
・・・大切りにナポレオンがその将士を招集して勲章を授ける式場の光景はさすがにレビューの名に恥じない美しいものであった。 ムーラン・ルージュはこれと同じようでも、どこかもう少し露骨で刺戟の強いものであった。完全に裸体で豊満な肉体をもった黒髪の女・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
・・・広い書院は勲章や金モールの方で一杯だ。そこへ私にも出ろと仰ゃって下さるんだけれど、何ぼ何でも状が状だから出る訳に行きゃしねえ。 するとお前さん、大将が私の前までおいでなすって、お前にゃ単た一人の子息じゃったそうだなと、恐入った御挨拶でご・・・ 徳田秋声 「躯」
・・・ビスマークがカーライルに送った手紙と普露西の勲章がある。フレデリック大王伝の御蔭と見える。細君の用いた寝台がある。すこぶる不器用な飾り気のないものである。 案内者はいずれの国でも同じものと見える。先っきから婆さんは室内の絵画器具について・・・ 夏目漱石 「カーライル博物館」
・・・また、利禄をさりて身分の一段にいたりては、帝室より天下の学者を網羅してこれに位階勲章を賜わらば、それにて十分なるべし。 そもそも位階勲章なるものは、ただ政府中に限るべきものに非ず。官吏の辞職するは政府を去るものなれども、その去るときに位・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・それから勲章をお貰いになったお祝を申上げた時、お葉書を一度下さいましたっけ。それにわたくしはどうでございましょう。 わたくしはあなたの記念を心の隅の方に、内証で大切にしまって置いて、昔のようになんの幸福もなしに暮らしていました。それから・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・バナナのエボレットを飾り菓子の勲章を胸に満せり。バナナン大将「つかれたつかれたすっかりつかれた脚はまるっきり 二本のステッキいったいすこぅし飲み過ぎたのだし馬肉もあんまり食いすぎた。」(叫「何・・・ 宮沢賢治 「饑餓陣営」
・・・ やっぱり、まん中のは、大将の軍服で、小さいながら勲章も六つばかり提げています。両わきの小猿は、あまり小さいので、肩章がよくわかりませんでした。 小猿の大将は、手帳のようなものを出して、足を重ねてぶらぶらさせながら、楢夫に云いました・・・ 宮沢賢治 「さるのこしかけ」
出典:青空文庫