・・・ 彼は巧く私を胡魔化す積りと見える。 どう考えてもそうとしか思えないので、栄蔵はわざわざお節にお前ほんとに手紙で来いと云ったのかと尋ねたりした。 お節も保証したけれ共栄蔵には解せなかった。 達の若々しい体をながめなが・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・の活動を妨害することで、勤労大衆がいく分なりと世界の本当の動きを階級的立場から理解出来ないようになれば、彼等にとって胡魔化すのに好都合だ。帝国主義日本の勤労大衆を反動文化で息もつかせず押し包んでおいて世界戦争を始めようと、われらプロレタリア・・・ 宮本百合子 「逆襲をもって私は戦います」
・・・製糸所の女工さんなどをプロレタリアの女として目ざまさない為に、いろんなブルジョアくさい女学校の型ばかりの真似をして、役にも立たない作文だの、活花だの、作法だので労働の中から自ずと湧く階級的な心持を胡魔化すのです。さもなければ、後藤静香の勤労・・・ 宮本百合子 「共産党公判を傍聴して」
・・・トピックとしての思想と見聞の現実性とが、機械的に絡み合わされたこの作品での試みの後、作者は生活の思想、文学の思想として思想を血肉化す努力はすてたように見える。 判断と生きる方向とを文学的に求めてゆかず、浮世の荒波への市民的対応の同一平面・・・ 宮本百合子 「今日の読者の性格」
・・・日本の民衆生活に世界的感覚がつちかわれていないためにまた、社会史の上でヨーロッパ市民との間にくいちがいがあるために、或る場合、或る種の人々が、一定の利害を合理化すために外国作家をかつぎあげることがはやった。もう、わたしたちは、きょうになって・・・ 宮本百合子 「序(『歌声よ、おこれ』)」
・・・さまざまな段階のさまざまな作家がそれぞれの方法で現実をとらえ、それぞれの形式で芸術化す可能が増大した。これは、一つのうれしい辛苦のたまものである。しかしながら私は、林君が近頃新聞に書いていたように、今は作家の少壮放蕩時代だ、何でもかまわず作・・・ 宮本百合子 「近頃の感想」
・・・奈良などの建物が古びたのは、あの乾燥した日光と熱とに照りつけられ徐に軽いさらさらした塵と化すといった風の古びかただ。長崎のは湿っぽい。先ず黝ずみ、やがては泥に成るというように感じられる。重い。そして、沈鬱だ。 昨夜深更まで碁を打って・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・私たちは、窮屈な、窮乏化す日本の民衆として、日々それぞれの形で実に営々として生きている。この姿を外にして私達一般人の人生はないのであるのに、それが抹殺されて、何のためにマダム・バタアフライのサクラ・バナやゲイシャや、フジサンのみを卑屈に修飾・・・ 宮本百合子 「日本の秋色」
・・・ 湯浅宮相が女子学習院の卒業式に出席して前例ない峻厳な華族の女の子たちの行紀粛正論をやったということが目立ったぐらいで、敢て道徳問題や親の不取締りとかいう点につき、問題化すものは少く日頃は根掘葉掘りの好きな新聞記者さえ、触れ得ぬ点のある・・・ 宮本百合子 「花のたより」
・・・プロレタリア・農民・一般勤労階級を資本主義第三期帝国主義の矛盾によって最悪化す世界的搾取から徹底的に解放するものはプロレタリア革命によるソヴェト権力の樹立、プロレタリア独裁あるのみである。歴史的発展のこの唯一にして自明な闘争を勝利的に闘うた・・・ 宮本百合子 「文学に関する感想」
出典:青空文庫