・・・そして伊吹の見える特別な日が、事によると北西風の吹かないわりにあたたかく穏やかな日にでも相当するので、そういう日に久々で戸外にでも出て伊吹山を遠望し、きょうは伊吹が見える、と思うのではないかとまで想像される。そうするとまたこの「冬ごもり」の・・・ 寺田寅彦 「伊吹山の句について」
昭和九年九月十三日頃南洋パラオの南東海上に颱風の卵子らしいものが現われた。それが大体北西の針路を取ってざっと一昼夜に百里程度の速度で進んでいた。十九日の晩ちょうど台湾の東方に達した頃から針路を東北に転じて二十日の朝頃からは・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・これがもういっそう大仕掛けになって、たとえばアジア大陸と太平洋との間に起こるとそれがいわゆる季節風で、われわれが冬期に受ける北西の風と、夏期の南がかった風になるのです。 茶わんの湯のお話は、すればまだいくらでもありますが、今度はこれくら・・・ 寺田寅彦 「茶わんの湯」
・・・明暦三年の振袖火事では、毎日のように吹き続く北西気候風に乗じて江戸の大部分を焼き払うにはいかにすべきかを慎重に考究した結果ででもあるように本郷、小石川、麹町の三か所に相次いで三度に火を発している。由井正雪の残党が放火したのだという流言が行な・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
・・・これが実現した暁には北西の空からあらゆる波長の電磁波の怒濤が澎湃としてわが国土に襲来するであろう。 思想などというものは物質的には夢のようなものである。半世紀たたないうちに消えてしまわなければ変化してしまう。日本には昔からずいぶんいろい・・・ 寺田寅彦 「北氷洋の氷の割れる音」
・・・もっとも二百十日や八朔の前後にわたる季節に、南洋方面から来る颱風がいったん北西に向って後に抛物線形の線路を取って日本を通過する機会の比較的多いのは科学的の事実である。そういう季節の目標として見れば二百十日も意味のない事はない、しかし厄年の方・・・ 寺田寅彦 「厄年と etc.」
・・・低気圧による北西風が丁度この南東風を打消すようになる場合には海陸風だけが幅を利かせて、従って夕凪が顔を出す。しかし低気圧がもう一層近くなってそれが季節風を消却してなおおつりの出る場合には、夕風は夕風でもいつもとは反対の夕風が吹くのである。同・・・ 寺田寅彦 「夕凪と夕風」
・・・ 見るとそこにはファゼーロが作ったらしく、一本の棒を立ててその上にボール紙で矢の形を作って北西の方を指すようにしてありました。「さあ、こっちへ行くんだ。向うに小さな樺の木が二本あるだろう。あすこが次の目標なんだよ。暗くならないうちに・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
出典:青空文庫