・・・「ではこの『より善い半ば』や『より悪い半ば』は何を標準に区別しますか? こう言う問題を解決する為には、これも度たび申し上げた価値論へ溯らなければなりません。価値は古来信ぜられたように作品そのものの中にある訳ではない、作品を鑑賞する我我の・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・最後にその二等と三等との区別さえも弁えない愚鈍な心が腹立たしかった。だから巻煙草に火をつけた私は、一つにはこの小娘の存在を忘れたいと云う心もちもあって、今度はポッケットの夕刊を漫然と膝の上へひろげて見た。するとその時夕刊の紙面に落ちていた外・・・ 芥川竜之介 「蜜柑」
・・・いわば公私の区別とでもいうものをこれほど露骨にさらけ出して見せる父の気持ちを、彼はなぜか不快に思いながらも驚嘆せずにはいられなかった。 一行はまた歩きだした。それからは坂道はいくらもなくって、すぐに広々とした台地に出た。そこからずっとマ・・・ 有島武郎 「親子」
・・・マルクスはその生命観において、物心の区別を知らないほどに全的要求を持った人であったということができると私は思う。私はマルクスの唯物史観をかくのごとく解するものである。 ところが資本主義の経済生活は、漸次に種子をその土壌から切り放すような・・・ 有島武郎 「想片」
・・・ 無骨な口で、「船に乗っとるもんでもが……現在、膃肭臍を漁った処で、それが膃肭臍、めっとせいという区別は着かんもんで。 世間で云うめっとせいというから雌でしょう、勿論、雌もあれば、雄もあるですが。 どれが雌だか、雄だか、黒人・・・ 泉鏡花 「露肆」
・・・戸村家の墓地は冬青四五本を中心として六坪許りを区別けしてある。そのほどよい所の新墓が民子が永久の住家であった。葬りをしてから雨にも逢わないので、ほんの新らしいままで、力紙なども今結んだ様である。お祖母さんが先に出でて、「さア政夫さん、何・・・ 伊藤左千夫 「野菊の墓」
・・・すると一人は、それを打ち消すようにして、「人間だって同じじゃないか、毎日のように、若いもの、年寄りの区別なく死んで墓へゆくのに、自分だけは、いつまでも生きていると思って、欲深くしているのだ。」といいました。 子供は、これを聞いて、な・・・ 小川未明 「あらしの前の木と鳥の会話」
・・・既に形式的に出来上っているところの主義の為めの作物、主義の為めの批評と云うものは、虚心平気で、自己対自然の時に感じた真面目な感じとは是非区別されるものと思う。 よく真面目と云うことを云う。僕はこの真面目と云うことは即ち自分が形式に囚われ・・・ 小川未明 「動く絵と新しき夢幻」
・・・と言っているのか、はっきり区別がつかない。 字で書けば、「だす」よりも「どす」の方が、音がどぎついように思われる。「どす黒い」とか「長どす道中」とか「どすんと尻餅ついた」とか、どぎつくて物騒で殺風景な聯想を伴うけれども、しかし、耳に聴け・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
・・・であり、いうならば、人間の可能性を描き、同時に小説形式の可能性を追求している点で、明確に日本の伝統的小説と区別されるのだ。日本の伝統的小説は可能性を含まぬという点で、狭義の定跡であるが、外国の近代小説は無限の可能性を含んでいる故、定跡化しな・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
出典:青空文庫