・・・――というと、あるいは半分ぐらい嘘になるかもしれない。そんなことがなくても、そろそろ怠け癖がついているのです。使いに行けば油を売る。鰻谷の汁屋の表に自転車を置いて汁を飲んで帰る。出入橋の金つばの立食いをする。かね又という牛めし屋へ「芋ぬき」・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・ 吸筒半分も有ったろうよ。やれ嬉しや、是でまず当分は水に困らぬ――死ぬ迄は困らぬのだ。やれやれ! 兎も角も、お蔭さまで助かりますと、片肘に身を持たせて吸筒の紐を解にかかったが、ふッと中心を失って今は恩人の死骸の胸へ伏倒りかかった。如何に・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・横井は椅子に腰かけたまゝでその姿勢を執って、眼をつぶると、半分とも経たないうちに彼の上半身が奇怪な形に動き出し、額にはどろ/\汗が流れ出す。横井はそれを「精神統一」と呼んだ。「……でな、斯う云っちゃ失敬だがね、僕の観察した所ではだ、君の・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・それくらいになると僕はもう半分夢を見ているような気持です。すると変なことには、そんなとき僕の耳には崖路を歩いて来る人の足音がきまったようにして来るんです。でも僕はよし人がほんとうに通ってもそれはかまわないことにしている。しかしその足音は僕の・・・ 梶井基次郎 「ある崖上の感情」
・・・それに町の出口入り口なれば村の者にも町の者にも、旅の者にも一休息腰を下ろすに下ろしよく、ちょっと一ぷくが一杯となり、章魚の足を肴に一本倒せばそのまま横になりたく、置座の半分遠慮しながら窮屈そうに寝ころんで前後正体なき、ありうちの事ぞかし。・・・ 国木田独歩 「置土産」
・・・ 結婚前の青年にとって、恋愛とは未来の「よりよき半分」を求めんとする無意識模索である。それは正統派の恋愛論の核心をなすところの、あの「二つのもの一つとならんとする」願望のあらわれである。ペーガン的恋愛論者がいかに嘲っても、これが恋愛の公・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・……全く儲けもんだ。」「うむ、儲けた。……半分わけてやろう。」 吉永は、自分が少くとも、明後日は、イイシへ行かなければならないことを思った。雪の谷や、山を通らなければならない。そこにはパルチザンがいる。また撃ち合いだ。生命がどうなる・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
・・・けれどもそこは小児の思慮も足らなければ意地も弱いので、食物を用意しなかったため絶頂までの半分も行かぬ中に腹は減って来る気は萎えて来る、路はもとより人跡絶えているところを大概の「勘」で歩くのであるから、忍耐に忍耐しきれなくなって怖くもなって来・・・ 幸田露伴 「雁坂越」
・・・私はぎょう天して、もう半分泣きながらやって行くのです。すると娘が下の留置場から連れて来られます。青い汚い顔をして、何日いたのか身体中プーンといやなにおいをさせているのです。――娘の話によると、レポーターとかいうものをやっていて、捕かまったそ・・・ 小林多喜二 「疵」
・・・へついに落ち着くこととなれば六十四条の解釈もほぼ定まり同伴の男が隣座敷へ出ている小春を幸いなり貰ってくれとの命令畏まると立つ女と入れかわりて今日は黒出の着服にひとしお器量優りのする小春があなたよくと末半分は消えて行く片靨俊雄はぞッと可愛げ立・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
出典:青空文庫