・・・中には政治家の半端もあるし、実業家の下積、山師も居たし、真面目に巡査になろうかというのもあった。 そこで、宗吉が当時寝泊りをしていたのは、同じ明神坂の片側長屋の一軒で、ここには食うや食わずの医学生あがりの、松田と云うのが夫婦で居た。・・・ 泉鏡花 「売色鴨南蛮」
一 仕事をしながら、龍介は、今日はどうするかと、思った。もう少しで八時だった。仕事が長びいて半端な時間になると、龍介はいつでもこの事で迷った。 地下室に下りていって、外套箱を開けオーバーを出して着ながら・・・ 小林多喜二 「雪の夜」
・・・ ともかくこの手紙は何か遑しく半端ですが、これだけにして送り出します。『辞苑』辞書としていいであろうと思うがいかがでしょうか。すぐ又書きます。林町の皆からもよろしく。 三月二十五日 〔市ヶ谷刑務所の顕治宛 上落合より〕 ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ いつか上りますよ、誰かと一緒に――「ええそいじゃあ左様なら、 つれて来ても好いから半端な数にしちゃあいけませんよ。 こんな事を千世子は云いながら出入口まで篤を送って行った。 風が出たらしいんですね。 篤・・・ 宮本百合子 「千世子(三)」
出典:青空文庫