・・・で、その原因事情はいずれにもせよ、大審院の判決通り真に大逆の企があったとすれば、僕ははなはだ残念に思うものである。暴力は感心ができぬ。自ら犠牲となるとも、他を犠牲にはしたくない。しかしながら大逆罪の企に万不同意であると同時に、その企の失敗を・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・三吉と同じように、小野も失業していたが、上京してしまった一ばん大きな原因は「ボル」が侵入してきたからであった。 ――裂けめだ。何かしら大きな裂けめだ。 ボルの理論は、まだしっかりつかめぬながら、小野から日ごとに離れてゆく自分を、三吉・・・ 徳永直 「白い道」
・・・此処に停車場を建てて汽車の発着する処となしたのは上野公園の風趣を傷ける最大の原因であった。上野の停車場及倉庫の如きは其の創設の当初に於て水利の便ある秋葉ヶ原のあたりを卜して経営せられべきものであった。然し新都百般の経営既に成った後之を非難す・・・ 永井荷風 「上野」
・・・その原因は科学的精神が乏しかったためで、その理想を批評せず吟味せずにこれを行って行ったというのである。また昔は階級制度が厳しいために過去の英雄豪傑は非常にえらい人のように見えて、自分より上の人は非常にえらくかつ古人が世の中に存在し得るという・・・ 夏目漱石 「教育と文芸」
・・・これが第一次世界大戦の原因である。十九世紀は国家的自覚の時代、所謂帝国主義の時代であった。各国家が何処までも他を従えることによって、自己自身を強大にすることが歴史的使命と考えた。そこには未だ国家の世界史的使命の自覚というものに至らなかった。・・・ 西田幾多郎 「世界新秩序の原理」
・・・そしてこれが、ニイチェを日本の理解からさまたげてる最も根本の原因である。近頃日本の文壇では「日常性の哲学」といふことが言はれて居るが、元来文学者の生活には、常に「哲学する日常性」が必要なのである。即ちゲーテも言つてるやうに、詩人に必要なもの・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
・・・夫婦の間に子なき其原因は、男子に在るか女子に在るか、是れは生理上解剖上精神上病理上の問題にして、今日進歩の医学も尚お未だ其真実を断ずるに由なし。夫婦同居して子なき婦人が偶然に再縁して子を産むことあり。多婬の男子が妾など幾人も召使いながら遂に・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・この相違を来すにゃ何か相当の原因が無くばなるまい。 私は二十世紀の文明は皆な無意義になるんじゃないかと思う。何と云っても今はまだレフレクションの影響を免がれていない。十九世紀で暴威を逞くした思索の奴隷になっていたんで、それを弥々脱却する・・・ 二葉亭四迷 「私は懐疑派だ」
・・・○くだものと余 余がくだものを好むのは病気のためであるか、他に原因があるか一向にわからん、子供の頃はいうまでもなく書生時代になっても菓物は好きであったから、二ヶ月の学費が手に入って牛肉を食いに行たあとでは、いつでも菓物を買うて来て食うの・・・ 正岡子規 「くだもの」
・・・ これには、複雑な原因があると思うが、その一つはおふみという女の感情表現に問題がひそんでいるのではないだろうか。おふみに扮した山路ふみ子は、宿屋の女中のとき、カフェーのやけになった女給のとき、女万歳師になったとき、それぞれ力演でやってい・・・ 宮本百合子 「「愛怨峡」における映画的表現の問題」
出典:青空文庫