・・・それは、原始時代を思わせる悲惨なものだった。 彼は、能う限り素早く射撃をつゞけて、小屋の方へ退却した。が、犬は、彼らの退路をも遮っていた。白いボンヤリした月のかげに、始め、二三十頭に見えた犬が、改めて、周囲を見直すと、それどころか、五六・・・ 黒島伝治 「前哨」
・・・それは丁度人間が原始時代から或る発達の経過を踏むと同じことです。万有は勿論、人間も文芸も、それと同じ一つの大きな道を通って来たものです。その各時代がそれを正しく発表していると同様に、自分がその大道の一期間に正しい生活をすれば、その中に新しい・・・ 宮本百合子 「今日の女流作家と時代との交渉を論ず」
・・・を取扱う場合も、男はそれを彼の生活の一部として虚心に口にし、芸術化し得るのに対し、女性はそれをより以上に敏覚する素質を与えられていながら、彼女がその原始時代から伝統的に培われてきた道徳性は、この問題を直ぐに善悪の批判の上に結び付けたがります・・・ 宮本百合子 「女流作家として私は何を求むるか」
・・・ 日本文化史総論は、そういう世界史との横の感覚も常に保ちつつ、先ず日本の社会と文化の項で、時代、地域、社会、民族と文化の関係を説明し、日本の文化の姿相と性格との項で原始時代から今日と明日の文化までを考えている。ただ明日の日本の新しい文化・・・ 宮本百合子 「世代の価値」
出典:青空文庫