・・・自分は、今この覚え書の内容を大体に亘って、紹介すると共に、二三、原文を引用して、上記の疑問の氷解した喜びを、読者とひとしく味いたいと思う。―― 第一に、記録はその船が「土産の果物くさぐさを積」んでいた事を語っている。だから季節は恐らく秋・・・ 芥川竜之介 「さまよえる猶太人」
・・・高等科一年の級長の書いたものだそうである。原文のまゝである。――私はこれを読んで、もう一息だと思った。然しこの級長はこれから打ち当って行く生活からその本当のことを知るだろうと考えた。――一九三一・一二・一○――・・・ 小林多喜二 「級長の願い」
・・・以下は、その原文であります。流石に、古今の名描写であります。背後の男の、貪婪な観察の眼をお忘れなさらぬようにして、ゆっくり読んでみて下さい。 女学生が最初に打った。自分の技倆に信用を置いて相談に乗ったのだと云う風で、落ち着いてゆっくり発・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・家庭円満、妻子と共に、おしるこ万才を叫んで、ボオドレエルの紹介文をしたためる滅茶もさることながら、また、原文で読まなければ味がわからぬと言って自身の名訳を誇って売るという矛盾も、さることながら、どだい、君たちには「詩」が、まるでわかっていな・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・けれども心は、彼のものであった。原文のまま。 おかしな幽霊を見たことがございます。あれは、私が小学校にあがって間もなくのことでございますから、どうせ幻燈のようにとろんと霞んでいるに違いございませぬ。いいえ、でも、その青蚊帳に写した幻燈の・・・ 太宰治 「葉」
・・・これは諷刺の意を誤解せられては差支えるので、故意に原文に従わなかったのである。誤訳ではない。 著:ディモフオシップ 訳:森鴎外 「襟」
・・・の翻訳で読み、あるいは英語の教科書中に採録された原文で読んだりした。一方ではまた「経国美談」「佳人之奇遇」のごとき、当時では最も西洋臭くて清新と考えられたものを愛読し暗唱した。それ以前から先輩の読み物であった坪内氏の「当世書生気質」なども当・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・それの草稿が遺族の手もとにそのままに保存されていたのを同氏没後満三十年の今日記念のためにという心持ちでそっくりそれを複製して、これに原文のテキストと並行した小泉一雄氏の邦文解説を加えさらに装幀の意匠を凝らしてきわめて異彩ある限定版として刊行・・・ 寺田寅彦 「小泉八雲秘稿画本「妖魔詩話」」
・・・わたくしは例によって原文を次の如く訓み下す。「忍ヶ岡ハ其ノ東北ニ亘リ一山皆桜樹ニシテ、矗々タル松杉ハ翠ヲ交ヘ、不忍池ハ其ノ西南ヲ匝ル。満湖悉ク芙蓉ニシテ々タル楊柳ハ緑ヲ罩ム。雲山烟水実ニ双美ノ地ヲ占メ、雪花風月、優ニ四時ノ勝ヲ鍾ム。是ヲ・・・ 永井荷風 「上野」
・・・てた時だから、ああいう大家の苦心の作を、私共の手にかけて滅茶々々にして了うのは相済まん訳だ、だから、とても精神は伝える事が出来んとしても、せめて形なと、原形のまま日本へ移したら、露語を読めぬ人も幾分は原文の妙を想像する事が出来やせんか、と斯・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
出典:青空文庫