・・・ ジャーナリズムとはその語の示すとおり、その日その日の目的のために原稿を書いて、その時々の新聞雑誌の記事を作ることである。それ自身に別段悪い意味はないはずであるが、この定義の中にはすでにいろいろな危険を包んでいる。浅薄、軽率、不正確、無・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・ なんといってもこの本でいちばんおもしろいものはやはりこの原稿の複製写真である。オリジナルは児童用の粗末な藁紙ノートブックに当時丸善で売っていた舶来の青黒インキで書いたものだそうであるが、それが変色してセピアがかった墨色になっている。そ・・・ 寺田寅彦 「小泉八雲秘稿画本「妖魔詩話」」
・・・ その頃作った漢詩や俳句の稿本は、昭和四年の秋感ずるところがあって、成人の後作ったいろいろの原稿と共に、わたくしは悉くこれを永代橋の上から水に投じたので、今記憶に残っているものは一つもない。 わたくしは或雑誌の記者から、わたくしの少・・・ 永井荷風 「十六、七のころ」
・・・余は毎月刊行の雑誌に掲載される凡ての小説とはいわないつもりであるが、その大部分、即ち或る水平以上に達したる作物に対してはこの保護金なり奨励金なりを平等に割り宛て、当分原稿料の不足を補うようにしたら可かろうと思う。固より各人に割り宛てれば僅か・・・ 夏目漱石 「文芸委員は何をするか」
・・・とても原稿料なぞじゃ私一身すら持耐えられん。況や家道は日に傾いて、心細い位置に落ちてゆく。老人共は始終愁眉を開いた例が無い。其他種々の苦痛がある。苦痛と云うのは畢竟金のない事だ。冗い様だが金が欲しい。併し金を取るとすれば例の不徳をやらなけれ・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・ オオビュルナン先生は最後に書いた原稿紙三枚を読み返して見て、あちこちに訂正を加え、ある詞やある句を筆太に塗沫した。先生の書いているのは、新脚本では無い。自家の全集の序である。これは少々難物だ。 余計な謙遜はしたくない。骨を折って自・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・ある雑誌へ歌を送らねばならぬ約束があるので、それからまだ一時間ほど起きて居て歌の原稿を作った。 翌日も熱があったがくたびれ紛れに寝てしもうた。 そのまた翌日即ち五月一日には熱が四十度に上った。〔『ホトトギス』第三巻第十号 明治3・・・ 正岡子規 「車上の春光」
・・・の足跡標本を採収すべきにより希望者は参加 そこで正直を申しますと、この小さな「イギリス海岸」の原稿は八月六日あの足あとを見つける前の日の晩宿直室で半分書いたのです。私はあの救助係の大きな石を鉄梃で動かすあたりから、あとは勝手に私の空・・・ 宮沢賢治 「イギリス海岸」
・・・ 馬鹿らしい独言を云って机の上に散らばった原稿紙や古ペンをながめて、誰か人が来て今の此の私の気持を仕末をつけて呉れたらよかろうと思う。 未だお昼前だのに来る人の有ろう筈もなしと思うと昨日大森の家へ行って仕舞ったK子が居て呉れたら・・・ 宮本百合子 「秋風」
・・・予はこれを語るにつけても、主筆猪股君がこの原稿に接して、早く既に同じ周章をせねば好いがと懸念する。予の公衆に語る習はこれにも屈せず、予は終に人の己を席に延くを待たぬようになった。自ら席を設けて公衆に語るようになった。柵草紙と云ったのがその席・・・ 森鴎外 「鴎外漁史とは誰ぞ」
出典:青空文庫