・・・…… 日本軍の攻撃が厳重になればなる程、パルチザンの怨恨と復仇は鋭利になった。そして、それを慰むべき手段は次第に潜行的に、意表に出てくるのだった。 線路には、爆破装置が施されているのではなかった。破壊されているのでもなかった。たゞ、・・・ 黒島伝治 「氷河」
・・・そこでまた思い切ってその翌朝、今度は団飯もたくさんに用意する、銭も少しばかりずつ何ぞの折々に叔父に貰ったのを溜めておいたのをひそかに取り出す、足ごしらえも厳重にする、すっかり仕度をしてしまって釜川を背後に、ずんずんずんずんと川上に上った。や・・・ 幸田露伴 「雁坂越」
・・・元来其頃は非常に何かが厳重で、何でも復習を了らないうちは一寸も遊ばせないという家の掟でしたから、毎日々々朝暗いうちに起きて、蝋燭を小さな本箱兼見台といったような箱の上に立てて、大声を揚げて復読をして仕舞いました。そうすれば先生のところから帰・・・ 幸田露伴 「少年時代」
・・・佳い締り金物と見えて音も少く、しかもぴったりと厳重に鎖されたようだった。雲の余りの雪は又ちらちらと降って来た。女は門の内側に置いてあった恐ろしい大きな竹の笠、――茶の湯者の露次に使う者を片手で男の上へかざして雪を避けながら、片手は男の手を取・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・ 今度こそ、眼と耳と両方を使って、彼女の良人は眼と同様に耳も働かせた厳重な検査をし、二度目の、物を云える妻と、結婚しました。〔一九二三年二月〕 著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子 「唖娘スバー」
・・・この社会では結婚前は勿論、結婚してからも、さ程厳重に束縛せられないと云うことを、令嬢は好く知っているのである。 勿論ポルジイの品行は随分ひどい。しかし女達に追い廻されている男だと云う所を酌量して遣らなくてはならない。馬は目醒ましい上手で・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・に有機的な設計書の精細な図表に従って、厳重に遂行されなければならない性質のものである。しかもそれはこれに併行する経済的の帳簿の示す数字によって制約されつつ進行するのである。細かく言えば高価なフィルムの代価やセットの値段はもちろん、ロケーショ・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・娘たちはこの学校へいれられたが最後みんなおそろいの棒縞の制服を着せられて五か月たつまでは一回の外出も許されずに、厳重な舎監のいわゆるプロイセン的な規律のもとに教育を受けなければならないのである。プロイセン軍国的訓練のために生徒たちは「特にお・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・勿論これらはほんの素人の慰み半分の小型映画作品であったのでこういう厳重な批評をするのは無理であろうが、これでもおおよその水準を窺うことは出来るであろうと思われる。 元来教育映画は骨の折れる割合に商品価値の低いものである以上、現在日本の映・・・ 寺田寅彦 「教育映画について」
・・・「いやこれは夜中はなはだ失礼で……実は近頃この界隈が非常に物騒なので、警察でも非常に厳重に警戒をしますので――ちょうど御門が開いておって、何か出て行ったような按排でしたから、もしやと思ってちょっと御注意をしたのですが……」 余はよう・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
出典:青空文庫