・・・女学校を出たてのお嬢さんが結婚よりも女の独立を主張し、五十六十のお婆さんまでが洋服を着て若い女と一緒に参政権を絶叫し、台所のお爨どんまで時間制を高唱して労働運動に参加しようとする今日の思潮は世間の大勢で如何ともする事が出来ないのを、官僚も民・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・ これを思う時、婦人開放も、婦人参政も、すべての運動は独り女子のみに限ったことでないことを知るであろう。 婦人が、男子に対立して、反抗した時代もやがて去ろうとしている。そして、新理想に輝く、社会建設の道へ、強い、真理と正義心との握手・・・ 小川未明 「婦人の過去と将来の予期」
・・・婦人参政権の問題なぞもむしろ当然の事としている位である。しかし人間は総じて男女の別なく、いかほど正しい当然な事でも、それをば正当なりと自分からは主張せずに出しゃばらずに、何処までも遠慮深くおとなしくしている方がかえって奥床しく美しくはあるま・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・日本の婦人が参政権を得て三週年を迎えたよろこびのあいさつに添えて、「世界じゅうの婦人が手をとりあって働きたいと願っていることを認識してほしい」という意味が語られている。「私どもはみな正しい平和をのぞんでいます」と。正しい平和というのは、ただ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第八巻)」
・・・ 婦人の参政権が認められてから、総選挙まで、私たちは幾度、日本の婦人は政治に無関心だという批評をきいて来ただろう。また、何度、どうせ棄権さ、という言葉をきかされて来たであろう。選挙準備の期間を通じて、新聞が報じたのは、選挙に対する一般の・・・ 宮本百合子 「一票の教訓」
・・・例えば、婦人に参政権が与えられたとき、あちこちに改めて「女らしさ」がとりあげられた。立候補した婦人たちは保守的な男女の一票をとり逃すまいとしてどんなに「女はどこまでも女らしく」と強調しただろう。はた目に気の毒なほど強調して「女こそ女の苦しみ・・・ 宮本百合子 「「女らしさ」とは」
・・・ 先日或る座談会でその話題にふれたとき、少くとも隣組の婦人たちの間では、婦人の参政権に対する興味の気ぶりさえも見られないということであった。「そんなことより食べることに忙しくて」と云う表現もきかれた。成程、そういう片づけかたをしている部・・・ 宮本百合子 「現実に立って」
・・・ フランスでも、日本と同じように、今度初めて、婦人に参政権が与えられました。昔からその優美さで世界にしられているフランスの婦人たちは、第一回の選挙に、どう投票したでしょう。 彼女たちは、百五十三名の、共産党代議士を選び出して、共産党・・・ 宮本百合子 「幸福のために」
・・・それは、日本の婦人に参政権の与えられた四月十日である、という風に。実際去年は、二つの婦人デーがあったのです。 けれども、考えてみれば、これは何と変なことでしょう。ポツダム宣言は一九四五年八月十五日という日づけで受諾したのではなかったでし・・・ 宮本百合子 「国際婦人デーへのメッセージ」
・・・婦人の幸福は家庭にあり、家庭において婦人が婦徳を全うすることこそ日本文化の世界に誇るべき輝きであると論じ、婦人参政権運動の市川房枝女史も座談会の席上でもとの婦選運動は男性に対して行われたような点がなくはなかったが、この頃は婦人の特徴をよく理・・・ 宮本百合子 「今日の文化の諸問題」
出典:青空文庫