・・・が、いつも反対の嘲笑を受けるばかりだった。その後も、――いや、最近には小説家岡田三郎氏も誰かからこの話を聞いたと見え、どうも馬の脚になったことは信ぜられぬと言う手紙をよこした。岡田氏はもし事実とすれば、「多分馬の前脚をとってつけたものと思い・・・ 芥川竜之介 「馬の脚」
・・・彼と差し向かいだった時とは反対に、父はその人に対してことのほか快活だった。部屋の中の空気が昨夜とはすっかり変わってしまった。「なあに、疲れてなんかおりません。こんなことは毎度でございますから」 朝飯をすますとこう言って、その人はすぐ・・・ 有島武郎 「親子」
・・・ 詩が内容の上にも形式の上にも長い間の因襲を蝉脱して自由を求め、用語を現代日常の言葉から選ぼうとした新らしい努力に対しても、むろん私は反対すべき何の理由ももたなかった。「むろんそうあるべきである」そう私は心に思った。しかしそれを口に出し・・・ 石川啄木 「弓町より」
・・・ さては、暗の中に暗をかさねて目を塞いだため、脳に方角を失ったのであろうと、まず慰めながら、居直って、今まで前にしたと反対の側を、衝と今度は腕を差出すようにしたが、それも手ばかり。 はッと俯向き、両方へ、前後に肩を分けたけれども、ざ・・・ 泉鏡花 「伊勢之巻」
・・・に礼儀と興味との調和を得せしむるという事が家庭を整へ家庭を楽むに最も適切なる良法であることは是又何人も異存はあるまい、人或はそんなことをせなくとも、家庭を整え家庭を楽むことが出来ると云はば、予はそれに反対せぬ別に良法があればそれもよろしいか・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・聨隊長はこの進軍に反対であったんやけど、止むを得ん上官の意志であったんやさかい、まア、半分焼けを起して進んで来たんや。全滅は覚悟であった。目的はピー砲台じゃ、その他の命令は出さんから、この川を出るが最後、個々の行動を取って進めという命令が、・・・ 岩野泡鳴 「戦話」
・・・か隈板内閣だかの組閣に方って沼南が入閣するという風説が立った時、毎日新聞社にかつて在籍して猫の目のようにクルクル変る沼南の朝令暮改に散三ッ原苦しまされた或る男は曰く、「沼南の大臣になるなら俺が第一番に反対運動する、国家の政治が沼南のお天気模・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・とにかく反対があればあるほど面白い。われわれに友達がない、われわれに金がない、われわれに学問がないというのが面白い。われわれが神の恩恵を享け、われわれの信仰によってこれらの不足に打ち勝つことができれば、われわれは非常な事業を遺すものである。・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・「それが反対になって、わたくしが勝ってしまいました時、わたくしはただ名誉を救っただけで、恋愛を救う事が出来なかったのに気が付きました。総ての不治の創の通りに、恋愛の創も死ななくては癒えません。それはどの恋愛でも傷けられると、恋愛の神が侮・・・ 著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外 「女の決闘」
・・・と、Bがんが、むしろ、反対の意見をもらしました。「そのことだ。ただ、この頼りない希望のために、この安全なすみかを捨ててゆくということが考えものなのだ。おそらく、もう二度ともどってくることはできなかろう。」と、りこうそうながんが、考え深い・・・ 小川未明 「がん」
出典:青空文庫