・・・誰が馬琴の『侠客伝』などを当時の実社会の反映だとはいい得ましょう? 馬琴以外の作者は実に時代と並行線を描いて居ましたが、馬琴は実に時代と直角的に交叉して居たのであります。時代の流れと共に流れ漂って居た人で無かったのであります。自分は自分の感・・・ 幸田露伴 「馬琴の小説とその当時の実社会」
・・・ 夕方の家事雑役をするということは、先刻の遊びに釣をするのでないという言葉に反映し合って、自分の心を動かさせた。 ほんとのお母さんでないのだネ。明日の米を磨いだり、晩の掃除をしたりするのだネ。 彼はまた黙った。 今日も鮒を一・・・ 幸田露伴 「蘆声」
・・・祭壇から火の立ち登る柱廊下の上にそびえた黄金の円屋根に夕ぐれの光が反映って、島の空高く薔薇色と藍緑色とのにじがかかっていました。「あれはなんですか、ママ」 おかあさんはなんと答えていいか知りませんでした。「あれが鳩の歌った天国で・・・ 著:ストリンドベリアウグスト 訳:有島武郎 「真夏の夢」
・・・ このはじめて見た文楽の人形芝居の第一印象を、近ごろ自分が興味を感じている映画芸術の分野に反映させることによってそこに多くの問題が喚起され、またその解決のかぎを投げられるように思われる。特に発声映画劇と文楽との比較研究はいろいろのおもし・・・ 寺田寅彦 「生ける人形」
・・・同じ線のリズムの余波は、あるいは衣服の襟に、あるいは器物の外郭線に反映している。たとえば歌麿の美人一代五十三次の「とつか」では、二人の女の髷の頂上の丸んだ線は、二人の襟と二つの団扇に反響して顕著なリズムを形成している。写楽の女の変な目や眉も・・・ 寺田寅彦 「浮世絵の曲線」
・・・これはこの二人の人の有声映画というものに対する心的態度と要求との根本的差違を反映する現象である。将来の有声映画製作者にとってはこの二つの対蹠的な現象の分析的研究が必要となるであろう。この二つのものはしかし必ずしも互いに相容れないものではない・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・に現われた夫婦愛のソフィスティケーションの中にわれわれは江戸っ子の粋の反映のようなものを認めることはできないであろうか。 粋の精神はまた一面において俳諧の精神と握手するところがある。露骨な真実、平板な虚欺、その二つの世界の境界に中立地帯・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(※[#ローマ数字7、1-13-27])」
・・・周囲のアメリカン・シチズンスの不用意な表情姿態の上に反映したフーヴァーのほうがはるかに多くフーヴァーその人を物語るのである。半分はフーヴァーを写し半分は聴衆のほうにカメラを向けたのを撮ったほうが有効である。 こういう現実味からいうと演劇・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・ 午後に夕立を降して去った雷鳴の名残が遠く幽に聞えて、真白な大きな雲の峰の一面が夕日の反映に染められたまま見渡す水神の森の彼方に浮んでいるというような時分、試に吾妻橋の欄干に佇立み上汐に逆って河を下りて来る舟を見よ。舟は大概右岸の浅草に・・・ 永井荷風 「夏の町」
・・・ しかしわたくしは浅草の芝居の絵看板またその舞台を見て、戦争後の人心の残忍になった反映だとは考えていない。西洋の芝居で見るように西洋人は決して女を撲らないとも考えていない。わたくしは戦争後に現れた世間的事相に対する興味からこんな事を論述・・・ 永井荷風 「裸体談義」
出典:青空文庫