・・・と朱書きした大きな状袋から取り出して、「この契約書によると、成墾引継ぎのうえは全地積の三分の一をお礼としてあなたのほうに差し上げることになってるのですが……それがここに認めてある百二十七町四段歩なにがし……これだけの坪敷になるのだが、そ・・・ 有島武郎 「親子」
・・・小作料は三年ごとに書換えの一反歩二円二十銭である事、滞納には年二割五分の利子を付する事、村税は小作に割宛てる事、仁右衛門の小屋は前の小作から十五円で買ってあるのだから来年中に償還すべき事、作跡は馬耕して置くべき事、亜麻は貸付地積の五分の一以・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・三反か四反歩の、島特有の段々畠を耕作している農民もたくさんある。養鶏をしている者、養豚をしている者、鰯網をやっている者もある。複雑多岐でその生活を見ているだけでもなか/\面白い。このなかに身をひそめているのはひそめかたがあると思われるのであ・・・ 黒島伝治 「田舎から東京を見る」
・・・そして、親譲りの二反歩ほどの畠に、妻が一人で野菜物や麦を作っていた。「俺らあ、嚊がまた子供を産んで寝よるし、暇を出されちゃ、困るんじゃがのう。」彼は悄げて哀願的になった。「早や三人目かい。」杜氏は冷かすような口調だった。「はア。・・・ 黒島伝治 「砂糖泥棒」
・・・が、五段歩ほど田を持っている自作農もいる。又、一反歩ほど持っている者もいる。そこで「吾々貧乏人は……」と云われても、五反歩の自作農は、自分にはあまり関係していないことを喋っているように思ったりするのである。 話は、十分に砕いて、百姓によ・・・ 黒島伝治 「選挙漫談」
・・・又、一反歩ほど持っている者もいる。そこで「吾々貧乏人は……」と云われても、五反歩の自作農は、自分にはあまり関係していないことを喋っているように思ったりするのである。 話は、十分に砕いて、百姓によく分るように、百姓の身に直接響いて行くよう・・・ 黒島伝治 「選挙漫談」
・・・ 源作は、十六歳で父親に死なれ、それ以後一本立ちで働きこみ、四段歩ばかりの畠と、二千円ほどの金とを作り出していた。彼は、五十歳になっていた。若い時分には、二三万円の金をためる意気込みで、喰い物も、ろくに食わずに働き通した。併し、彼は最善・・・ 黒島伝治 「電報」
・・・ 子供なりに僕は、自分の家に、一枚の山も、一段歩の畠も持っていないのを、引け目に感じた。それをいまだに覚えている。その当時、僕の家には、田が、親爺が三年前、隣村の破産した男から二百八十円で買ったのが一枚あるきりだった。それ以外は、すべて・・・ 黒島伝治 「浮動する地価」
・・・ 米吉は、三反歩の小作と、笊あみの副業で食っている。――そこは森林が多かった。御料林だった。御料林でなければ、県有林だった。農民は、一本の樹も、一本の枝も伐ることが出来なかった。同時に、そこは禁猟区だった。畠の岸で見つけた雲雀の卵を取っ・・・ 黒島伝治 「名勝地帯」
・・・単に反歩ともいったようである。 吉原田圃の全景を眺めるには廓内京町一、二丁目の西側、お歯黒溝に接した娼楼の裏窓が最もその処を得ていた。この眺望は幸にして『今戸心中』の篇中に委しく描き出されている。即ち次の如くである。忍ヶ岡と太郎・・・ 永井荷風 「里の今昔」
出典:青空文庫