・・・こんな趣きの無い原っぱに、日本全国から、ぞろぞろ人が押し寄せ、汗だくで押し合いへし合い、一寸の土地を争って一喜一憂し、互に嫉視、反目して、雌は雄を呼び、雄は、ただ半狂乱で歩きまわる。頗る唐突に、何の前後の関聯も無く「埋木」という小説の中の哀・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・普通の踊子が裸体を勤める女に対して影口をきくこともなく、各その分を守っているとでもいうように、両者の間には何の反目もない。楽屋はいつも平穏無事のようである。 踊子の踊の間々に楽屋の人たちがスケッチとか称している短い滑稽な対話が挿入される・・・ 永井荷風 「裸体談義」
・・・女の日常に嫉妬や反目がないといえば、それはうそになろう。 それにもかかわらず、なお女同士の間には次第に社会的な基礎での友情がえられて来ているし、その質もおいおいたかめられ、それを評価し尊重することも学んで来ているのは、どういうわけだろう・・・ 宮本百合子 「異性の間の友情」
・・・そもそもの始りがです、維新の始、賊軍として、長い間反目されて居た此の東北地方に、尊王奉国の中心として大神宮を建てたらよろしかろうと云う有難い大御心から、わざわざ伊勢大廟の分祠として祭られたものなのですな、それを斯のように荒廃にまかせて置いて・・・ 宮本百合子 「日記・書簡」
出典:青空文庫