・・・にいたってそれらのテーマの反覆統一として榕子を描いている作者の精神も、その角度からならば、強い芸術の精神といわれるのであろうか。もしこの架空会見記をどこかに一人の女性として生活しているモデルと仮想されている人が読んだならば、彼女は描かれた女・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・ 現代の世界の波濤は、二葉亭四迷のこの悲劇を再び案外に多くのところで、若い命の上に反覆しようとしているのではないだろうか。 二葉亭四迷の行うべきであった義務は、日本の文学の成長を根気づよく支持し、援け、力の限りそのための養いとなる条・・・ 宮本百合子 「生活者としての成長」
・・・ こういう風にインテリゲンツィアと民主主義の関係を真面目に理解すれば、この頃平野謙氏が反覆して云っているような、小林多喜二の死と特攻隊員の死とは、単に一つ歴史の両面であり、等しく犬死にであるという論の非現実なことが分って来る。オブローモ・・・ 宮本百合子 「誰のために」
・・・ 歴史はいたずらに反覆するものでないから、今再び若い批評家の間に、唯物弁証法をたてまえとしようとして図式主義におちいった批評の要求が現れたとしたら、それには又、私が経験した時代と異った社会的要因がなければなるまい。時間にすれば、わずかに・・・ 宮本百合子 「近頃の感想」
・・・世の中の現象が反覆としてだけ映って来る。そして何時も若々しい感情の波だちをもって人生に生きるものを、その幼稚さで嘲笑するのであるが、若し我々が本当に動的な世界観をもつリアリストであるならば、作家として倦怠に陥入ることは殆んどあり得ないことと・・・ 宮本百合子 「問に答えて」
・・・北方の春は短かく一時に夏景色になるわけなのに、この高原では、すべて徐々に、すべて反覆しつつ、追々夏になって来る。東京で桜が散った後は、もう一雨で初夏の香が街頭に満つが、ここでは、こうやって今日一日降りくらす、明日晴れる、翌日は又雨で、次の日・・・ 宮本百合子 「夏遠き山」
・・・――ひろ子は、その字がよめる距離から入口のドアをあけるまで、くりかえしくりかえし、その五字を心に反覆した。これまで、日本ではただの一遍も通行人に読まれたことのなかった表札であった。赤旗という新聞を知っているものも、その編輯局と印刷局が、どう・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・そのためにこれ程反覆され、殆ど既に長篇になりかかっている題材が、はっきり主題を押しすすめるところの芸術的統一を失っていることを私は遺憾に思ったのであった。 このことは勿論卑俗な実話的意味で、作者が所謂裸になっていないことを指しているので・・・ 宮本百合子 「二つの場合」
・・・去る三月九日のアカハタにもしるしたとおりであり、これらについては反覆する必要はないでしょう。 文学運動について多少とも冷静に客観的事実を重んじる人は、それが従来の民主的プロレタリア文学の読者層をより広く開拓したことは率直にみとめていま・・・ 宮本百合子 「文学について」
・・・その内輪で、どちらかと云えば神経質な交渉の反覆を日頃経験している人々が、そういうこまかい利害からは埒外にあって、しかも今日の世の中では文学の仕事にたずさわる者に対して高飛車な朗らかさと率直さを示し得る背景の前にいる人々を眺めたら、一応それら・・・ 宮本百合子 「文学の大衆化論について」
出典:青空文庫