・・・「これは我々の聖徒のひとり、――あらゆるものに反逆した聖徒ストリントベリイです。この聖徒はさんざん苦しんだあげく、スウェデンボルグの哲学のために救われたように言われています。が、実は救われなかったのです。この聖徒はただ我々のように生活教・・・ 芥川竜之介 「河童」
・・・四囲の抑制ようやく烈しきにしたがってはついにこれに反逆し破壊するの挙に出る。階級といい習慣といい社会道徳という、我が作れる縄に縛られ、我が作れる狭き獄室に惰眠を貪る徒輩は、ここにおいて狼狽し、奮激し、あらん限りの手段をもって、血眼になって、・・・ 石川啄木 「初めて見たる小樽」
・・・なぜなら、彼等は自然に対する、否、地に対する反逆者であるからです。 言い換えれば、地と人間の親しい交渉、それを措いて生活は他にないのであります。愛と美と温かな感情とが、生活に必要なばかりであって、知識というものは本能的の生活には要がない・・・ 小川未明 「草木の暗示から」
・・・また、芸術形式単純化は、即ち、資本主義的文化、強権主義的文化に対する、唯一つ反逆なのだ。 小川未明 「単純化は唯一の武器だ」
・・・フランスのように多くの古典を伝統として持っている国ですら、つねに古典への反逆が行われ、老大家のオルソドックスに飽き足らぬアヴァンギャルド運動から二百一人目の新人が飛び出すのではあるまいか。ジュリアン・バンダがフランス本国から近著した雑誌で、・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・わざと汚なくしていたのは、お上品なプチブル趣味への反逆でもあった。彼は小説家だが、彼の書く小説にはつねに庶民が出て来た。彼自身市井の塵埃や泥の中に身を横たえて書いたと思われるような小説が多かった。たまたまブルジョワが出て来てもしかしそれはブ・・・ 織田作之助 「四月馬鹿」
・・・が、東京の感情に合うような細工が出来ない訳はないだろうし、そういう細工をすれば、というくらいのことを感じないわけはないと思うが、それにも拘らず、あの作品を書き送ったということは、東京文壇に対する一種の反逆と見られないことはないと思う」 ・・・ 織田作之助 「東京文壇に与う」
・・・を不当に扱って来た世間というものに対する反逆心も含まれていた。そしてまた、寿子がもし天才だけで現在のようになったとすれば、この数年間、自分が生活のすべてを犠牲にして来たことが無意味になるではないか、という気持もあった。彼はただ現在の寿子を、・・・ 織田作之助 「道なき道」
・・・それは彼が安易を見出していると同じ原因が彼に反逆するのであった。彼が彼女の膚に触れているとき、そこにはなんの感動もなく、いつもある白じらしい気持が消えなかった。生理的な終結はあっても、空想の満足がなかった。そのことはだんだん重苦しく彼の心に・・・ 梶井基次郎 「ある崖上の感情」
・・・社会革新の情熱や、民族的使命の自覚はどこにおき忘れたのであろう。反逆の意志さえなきにまさるのである。永遠の恋、死に打ちかつ抱擁、そうしたイデーはもう「この春の流行」ではないとでも思っているのであろうか。 ヤンガー・ゼネレーションのこうし・・・ 倉田百三 「学生と生活」
出典:青空文庫