・・・を主題にしたスケッチを一枚かこうと思って適当な場所を捜していると、ちゃんとした本物の画学生らしいのが二人、同じ「青い家」を取り入れて八号ぐらいの画布をかいているのに出会った。一人は近景に黍の行列を入れ一人は溝にかかった板橋を使っていた。一人・・・ 寺田寅彦 「写生紀行」
・・・だから人間でも脇腹か臍のへんに特別な発声器があってもいけない理由はないのであるが、実際はそんなむだをしないで酸素の取り入れ口、炭酸の吐き出し口としての気管の戸口へ簧を取り付け、それを食道と並べて口腔に導き、そうして舌や歯に二役掛け持ちをさせ・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・一方では季題や去り嫌いや打ち越しなどに関する連句的制約をある程度まで導入して進行の沈滞を防ぎ楽章的な形式の斉整を保つと同時に、また映画の編集法連結法に関するいろいろの効果的様式を取り入れて一編の波瀾曲折を豊富にするという案である。 なん・・・ 寺田寅彦 「俳諧瑣談」
・・・かつて仏国にソンネット詩形を取り入れたとき、多少この詩形の規則をはずれたようなものを作ったものもあって、いかもの扱いにされたことであったが、それでもその規則はずれの自由さはほんのわずかの程度のものであった。しかるにフランスのハイカイはなるほ・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・ それで、この方法を真に有効ならしむるには、むしろあらゆる独断、偏見、臆説をも初めから排する事なく、なるべくちがったものをことごとくひとまず取り入れて、すべての可能性を一つ一つ吟味しなければならない。軽々しい否定は早急な肯定よりもはるか・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
・・・ 日本語ほど、他の国語を取り入れてそのまま日本化する言語は少いであろう。久しい間、我々は漢文をそのままに読み、多くの学者は漢文書き下しによって、否、漢文そのものによって自己の思想を発表して来た。それは一面に純なる生きた日本語の発展を妨げ・・・ 西田幾多郎 「国語の自在性」
・・・土民兵士の日常生活、彼等の白い被衣をかぶった妻子たちとの暮しぶり等は一つも画面に取り入れられていない。ただそこには調練と沙漠の行軍と描き出されてはいない敵との交戦があるだけである。これらの描写を通して、ルドヴィッチが最後にクリスチアーナに向・・・ 宮本百合子 「イタリー芸術に在る一つの問題」
・・・に至る迄、背景として取入れられている外国の名を列挙したばかりでも、相当なヴァラエティーは予期されよう。併し、全体として、見物は、その大がかりな規模にふさわしい深い感銘を、観覧後まで心に与えられたであろうか。 自分としてはかなり物足りなか・・・ 宮本百合子 「印象」
・・・けれども、毎日が、そして現実が不如意だからといって、決して自分の生活に作り出すことも出来ず、取り入れることも出来ないものに気をとられて、その気をまぎらしてゆくことが、はたして青春の貧困を満すことでしょうか。そうは思われません。わたしたちはも・・・ 宮本百合子 「自覚について」
・・・さえ時代の空気が流れ入っていることは、一つの例に過ぎず、当時は通俗小説の中にさえも新しさの象徴として時代的な青年男女の動き、心持ち、理論などと云うものがさまざまに歪曲されながら装飾として或はあやとして取り入れられたのであった。 この間に・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
出典:青空文庫