・・・の一分子として取り入れらるべきものであるか拒絶されるべきものであるかということなのである。 ところが、だんだんと立つうちに、彼女はまったく驚き、混乱せずにはいられないいろいろなことに出会い始めた。 赤という色は、それが赤であるかぎり・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・ ソヴェトではその後、社会主義の建設が進むにつれて、大衆の経済的、文化的実力にふさわしい社会主義的リアリズムが芸術の創作方法として取り入れられている。このことに就いても見落せない文学上の一つの理解の相違が、日本の文学の中に今日尚曖昧のま・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムへの道」
・・・という木の枝を、その女の門口にさしておくという風習があって、その枝が取入れられれば承知したことになり、若し女が承知しない時には、後からあとから、幾本かの錦木が立ち並んだままに捨てて置かれるという話を書いたもので、そのあたりの様子や、女の家の・・・ 宮本百合子 「昔の思い出」
私は絶えず本を読まなければならないと云う心持がして居る。 一日の中一度も何の本も読まないで過ぎると、何だか当然取り入れなければならないものがすぐ手近かにあったのに、知らん振りをして見ない顔をして通った様な不安が起って来・・・ 宮本百合子 「無題(四)」
・・・ビイルショウスキイの本もウルマイステルの事を取り入れて改版せられたが、その本は私が文芸委員会へ作者伝を出した日までには、まだ舶載せられていなかったのである。 右のファウスト考とファウスト作者伝とは訳本ファウストと同じ体裁にして訳本を発行・・・ 森鴎外 「訳本ファウストについて」
・・・したがって思想傾向も、一切を取り入れて統一しようという無傾向の傾向であって、好くいえば総合的、悪く言えば混淆的である。その主張を一語でいうと、神儒仏の三者は同一の真理を示している、一心すなわち神すなわち道、三にして一、一にして三である、とい・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・東京の裏街で昔の江戸の匂いを嗅これらの郷土の風景と住民と芸術との一切が、ここにはあたかも交響楽に取り入れられた数知れぬ音のようにおのおのその所を得、おのおのその微妙な響きを立てているのである。 木下はこれらの物象を描くに当たって、その物・・・ 和辻哲郎 「享楽人」
・・・いかに多く知識を取り入れても、それが心の問題とぴったり合っているのでなくては、自己を培うことにはなりません。私はただ血肉に食い入る体験をさしているのです。これはやがて人格の教養になります。そうして、その人が「真にあるはずの所へ」その人を連れ・・・ 和辻哲郎 「すべての芽を培え」
・・・とともに、歌舞伎芝居がその様式の一つの特徴として取り入れたものであった。歌舞伎芝居において特に顕著に首を動かす一、二の型を頭に浮かべつつ、それが自然な人間の動作のどこに起源を持つかを考えてみるがよい。そこにおのずから、人形の首の運動が演技様・・・ 和辻哲郎 「文楽座の人形芝居」
出典:青空文庫