・・・その娘が大きくなって恋をする、といったような甘い通俗的な人情映画であるが、しかし映画的の取扱いがわりにさらさらとして見ていて気持のいい、何かしら美しい健全なものを観客の胸に吹き込むところがある。一体こうした種類の映画はもっともっと多く作られ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感6[#「6」はローマ数字、1-13-26]」
・・・本来ならば実に退屈で到底見ていられそうもない筋と材料を使って、そうしてちっとも退屈させないで緊張をつづけて行くのは映画としての編成の上に至るところ非常に気のきいた取り扱い方があるおかげであろう。そうして、それが簡単に一口に説明のできないよう・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・この終末の取り扱い方にどこかフランス芸術に共通な気のきいた呼吸を見ることができるような気がする。 三 世界の屋根 この映画で自分のもっとも美しいと思った場面はおおぜいの白衣の回教徒がラマダンの断食月に寺院の広場に集ま・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・それでたとえばアメリカ映画における前述のレヴューの線条的あるいは花模様的な取り扱い方なども、そうした懸賞問題への一つの答案として見ることもできる。そうして、それに対して「踊る線条」のような抽象映画は一つの暗示として有用な意義をもちうるわけで・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・熱力学の方則を理解した作者としない作者とでは、同じ事件の取り扱い方におのずからちがった展開を見せないとは言われないであろう。 顕微鏡で花の構造を子細に点検すれば、花の美しさが消滅するという考えは途方もない偏見である。花の美しさはかえって・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・ともかくもこれらの名前を一定の方式に従って統計的に取り扱い、その結果がよければ前提が是認され、悪ければ否定されるのである。 完全な材料はなかなか急には得難いので、ここではまず最初の試みとして東京天文台編「理科年表」昭和五年版の「本邦のお・・・ 寺田寅彦 「火山の名について」
・・・それで例えば煙突の振動の問題でも、従来の理論的取扱い方に不満を感じて色々の点から改良を試みた。地震計の震動体にメルデ実験に相当する作用のあるのが見逃されているのに気付いて、これを無くする考案をしたりした。また多数の共鳴体を並列して地震動を分・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
・・・勿論これらの記事はどこまでが事実でどこからが西鶴の創作であるかは不明であるが、いずれにしてもこれらの素材の取扱い方に著者の心理分析的な傾向を認めても不都合はないはずであろうと思われる。 これらの心理的写実を馬琴や近松のそれと比べてみると・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・日常の会話にも下がかった事を軽い可笑味として取扱い得るのは日本文明固有の特徴といわなければならない。この特徴を形造った大天才は、やはり凡ての日本的固有の文明を創造した蟄居の「江戸人」である事は今更茲に論ずるまでもない。もし以上の如き珍々先生・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・ナチュラリズムは、材料の取扱い方が正直で、また現在の事実を発揮さすることに勉むるから、人の精神を現在に結合さする、例えば人間を始めから不完全な物と見て人の欠点を評したるものである。ローマンチシズムは、己以上の偉大なるものを材料として取扱うか・・・ 夏目漱石 「教育と文芸」
出典:青空文庫