・・・天下の父母は必ずその子を愛してその上達を願うの至情あるべしといえども、今日世上一般の事跡に顕われたる実際を見れば、子を取扱うの無情なること鬼の如く蛇の如く、これを鬼父蛇母と称するも妨げなき者甚だ多し。あるいはその鬼たり蛇たるの際にも、自ずか・・・ 福沢諭吉 「教育の事」
・・・ 事物につき是非判断の勘弁なくして、これを取扱うときは、必ず益なくして害をいたすべきや明らかなり。馬を撰ばずして、みだりに乗れば落つることあり。食物を撰ばずしてみだりに食えば毒にあたることあり。判断の明、まことに大切なることなれども、た・・・ 福沢諭吉 「経世の学、また講究すべし」
・・・寧ろロシアの文学者が取扱う問題、即ち社会現象――これに対しては、東洋豪傑流の肌ではまるで頭に無かったことなんだが――を文学上から観察し、解剖し、予見したりするのが非常に趣味のあることとなったのである。で、面白いということは唯だ趣味の話に止ま・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・数年来、私は女性を監獄ではどう取扱うのか知りたいという欲望をもっていた。売笑婦の研究、不良少女の研究、それ等は活動的な女性によって、或は社会研究者である男性の手によってされている。けれども、女囚の生活、獄中生活が女性に及ぼす精神的の影響等は・・・ 宮本百合子 「是は現実的な感想」
・・・作品の構成が、通俗的なストーリイとしてではなく、「大きな世界をその詳細な見取図において取り扱う」筋として、「人間関係を表示する行為が、決定的に重要な意義をもって来る」ものとして会得した上で、今日流布している長篇小説のあれこれの内部にふれて思・・・ 宮本百合子 「作家に語りかける言葉」
・・・社会主義リアリズムの問題はそのものとして、治安維持法の改悪からひきおこされたさけがたい恐慌は恐慌として、率直明白に別な二つの問題として取扱うところまで、当時のプロレタリア文学者たちは社会人として、理論的に成熟していなかった。悪法によって恐慌・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・赤札のは直ぐに取り扱う。その外はどの山かの下へ入れる。電報は大抵赤札と同じようにするのである。 為事をしているうちに、急に暑くなったので、ふいと向うの窓を見ると、朝から灰色の空の見えていた処に、紫掛かった暗色の雲がまろがって居る。 ・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・歴史的題材を取り扱う画において、特にこの傾向は著しい。人物を描けば、我々の目前に生きている人ではなくて、豊太閤である。あるいは狗子仏性を問答する禅僧である。あるいは釈迦の誕生を見まもる女の群れである。風景を描けば、そこには千の与四郎がたたず・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
・・・が万物に充満していると説くところは、やや汎神論的に見えるが、しかしそれをあくまでも天地の主宰者として取り扱うところに、佐渡守の狂信の対象であった阿弥陀仏や、キリシタンの説いていたデウスとの相似を思わせる。そういう点を考えると、この書が佐渡守・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・それをわれわれは、わが国の古墳時代の造形美術として取り扱うことができるのである。 わが国の古墳時代というと、西暦紀元の三世紀ごろから七世紀ごろまでで、応神、仁徳朝の朝鮮関係を中心とした時代である。あれほど大きい組織的な軍事行動をやってい・・・ 和辻哲郎 「人物埴輪の眼」
出典:青空文庫