・・・大丈夫だよ、なあにそんなに気に懸ける事はない、ほんのちょいと気を取直すばかりで、そんな可怪しいものは西の海へさらりださ。」「はい、難有う存じます、あのう、お蔭様で安心を致しましたせいか、少々眠くなって参ったようでざいますわ。」 と言・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・すると、私は、はっと気を取り直す。また、ぐっと引く。とろとろ眠る。また、ちょっと糸を放す。そんなことを三度か、四度くりかえして、それから、はじめて、ぐうっと大きく引いて、こんどは朝まで。 おやすみなさい。私は、王子さまのいないシンデレラ・・・ 太宰治 「女生徒」
・・・眼の凹んだ、煤色の、背の低い首斬り役が重た気に斧をエイと取り直す。余の洋袴の膝に二三点の血が迸しると思ったら、すべての光景が忽然と消え失せた。 あたりを見廻わすと男の子を連れた女はどこへ行ったか影さえ見えない。狐に化かされたような顔をし・・・ 夏目漱石 「倫敦塔」
出典:青空文庫