・・・ 憲兵が取調べる際にも、やはり、その弱点を掴むことに伍長と上等兵の眼は向けられた。彼等は、犯人らしい、多くの弱点を持っている者を挙げれば、それで役目がつとまるのだ。 事務室から出ることを許されて、兵舎へ行くと、同年兵達は、口々にぶつ・・・ 黒島伝治 「穴」
・・・或いはちゃんと覚えている癖に、成長した社会人特有の厚顔無恥の、謂わば世馴れた心から、けろりと忘れた振りして、平気で嘘を言い、それを取調べる検事も亦、そこのところを見抜いていながら、その追究を大人気ないものとして放棄し、とにかく話の筋が通って・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・また、私は、あとあと警察のひとが、私を取調べるときのことをも考慮にいれて置いたのである。私は、もちろん、今夜のこのできごとを、警察に訴え出るつもりは無い。新聞に出たりなどして、親戚友人などに、心配、軽蔑されるのは、私の好むところでは無いので・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・そして大岡越前守が「あの封建時代、みずから捕え、みずから取調べるというもっての外の裁判制度の時代ですら、今日三尺の児童も大岡裁き、大岡裁判といえば存ぜないものがないくらいの名をのこされた」その誠意、見識をもって本件をあつかってほしいと要望し・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
出典:青空文庫