・・・それかあらぬか、父は生れたばかりの私の顔をそわそわと覗きこんで、色の白いところ、鼻筋の通ったところ、受け口の気味など、母親似のところばかり探して、何となく苦りきっていたといいます。父は高座へ上ればすぐ自分の顔の色のことを言うくらい色黒で、鼻・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・髪の下に、生え際のすんなりした低い額と、心持受け口の唇とがある。納戸の着物を着た肩があって、そこには肩あげがある。 目で見る現在の景色と断れ断れな過去の印象のジグザグが、すーっとレンズが過去に向って縮むにつれ、由子の心の中で統一した。・・・ 宮本百合子 「毛の指環」
・・・あのぽっちゃりした受口に癇を立てて、ぷりぷりしながら沈んでいる姿まで思いやられるのであった。 傍で話をきいていて、すぐ死んでしまうとも思えない。さりとて、ストライキの時の確りした友達のところへ駈け込んで、もう二度と家へかえらず新しい生活・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・手の指が細くしなしなしていて、受け口だ。鼠色フランネルのカラーに背広を着て、ベズィメンスキーが出て来た。そして次のような挨拶をのべた。 今日は『プラウダ』も『イズヴェスチア』も第一面に、ソヴェトの最も功労あるマルクシストの一人であり、レ・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・大柄のおとなしい縹緻よしで、受け口のつつましい村上さんに意地わるをする武さんという娘は、その頃珍らしい贅沢な洋服姿の登校であった。襞のどっさりついた短い少女服のスカートをゆさゆささせながら、長い編上げ靴でぴっちりしめた細い脚で廊下から運動場・・・ 宮本百合子 「なつかしい仲間」
出典:青空文庫