・・・と布巾を持ったままあっけに取られたと云う風をする。あら靖雄さんでも埓があかん。「どうです、よほど悪いですか」と口早に聞く。 犬の遠吠が泥棒のせいときまるくらいなら、ことによると病気も癒っているかも知れない。癒っていてくれれば宜いがと・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
・・・ クねずみはさあ、これはいよいよ教えないといかんと思いましたので、口早に言いました。「一に一をたすと二です。」「そうだよ。」子供らが言いました。「一から一を引くとなんにもなくなります。」「わかったよ。」 子供らが叫び・・・ 宮沢賢治 「クねずみ」
・・・ 山猫は、鮭の頭でなくて、まあよかったというように、口早に馬車別当に云いました。「どんぐりを一升早くもってこい。一升にたりなかったら、めっきのどんぐりもまぜてこい。はやく。」 別当は、さっきのどんぐりをますに入れて、はかって叫び・・・ 宮沢賢治 「どんぐりと山猫」
・・・ 王子が口早にききました。「お前さっきからここにいたのかい。何してたの」 大臣の子が答えました。「お日さまを見ておりました。お日さまは霧がかからないと、まぶしくて見られません」「うん。お日様は霧がかかると、銀の鏡のようだ・・・ 宮沢賢治 「虹の絵具皿」
・・・ 親方が泣き出しそうになって口早に云いました。「お役人さん。そいつぁあんまり無理ですぜ。わしぁ一日一杯あるいてますがやっと喰うだけしか貰わないんです。あとはみんな親方がとってしまうんです。」「ふん、そうか。その親方はどこに居るん・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
出典:青空文庫