・・・ つけつけと小言を言わるれば口答えをするものの、省作も母の苦心を知らないほど愚かではない。省作が気ままをすれば、それだけ母は家のものたちの手前をかねて心配するのである。慈愛のこもった母の小言には、省作もずるをきめていられない。「仕事・・・ 伊藤左千夫 「隣の嫁」
・・・ 先生は可愛いのだから、此那事を云いたく無い、厭だ厭だと思いながら、西日の差す塵っぽい廊下の角で、息をつまらせて口答えを仕たお下髪の自分を思う。――その時分私は自分を詩人だと思っていた――。 七月の日は麗わしい。天地は光りに満ちてい・・・ 宮本百合子 「追慕」
・・・祖母は思わず一生に一遍の口答えを姑に向って、その位なら、せめて、息のあるうち上げたかった、と云ったそうだ。 政恒という人は所謂乾分はつくらなかった。然し有望な青年たちの教育ということには深い関心をもって一種の塾のようなものを持っていたこ・・・ 宮本百合子 「明治のランプ」
出典:青空文庫