・・・自分は、この伝説的な人物に関して、嘗て自分が懐いていた二つの疑問を挙げ、その疑問が先頃偶然自分の手で発見された古文書によって、二つながら解決された事を公表したいのである。そうして、その古文書の内容をも併せて、ここに公表したいのである。まず、・・・ 芥川竜之介 「さまよえる猶太人」
・・・こういう人物が残した古文書的の遺産は、無駄なバラストとして記憶の重荷になるばかりである。どうしても古代に溯りたいなら、せめてサイラスやアルタセルキセスなどは節約して、文化に貢献したアルキメーデス、プトレモイス、ヘロン、アポロニウスの事でも少・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・これが一歩進むとその歴史に関したあらゆる記録、古文書、古器物に対して丁度骨董家が有つような愛好の念をもってこれを蒐集する人もある。これは先ず純粋な骨董趣味と名づけ得られるものであろう。また少し種類が違っているが、品物を集めるのではなくて、古・・・ 寺田寅彦 「科学上の骨董趣味と温故知新」
・・・後三年を経ずして、わたしが少しく古文書について知らん事を欲した時、古書に精通した島田はそのために身を誤り既にこの世にはいなかったのであった。 話は後へ戻る。その夜唖々子が運出した『通鑑綱目』五十幾巻は、わたしも共に手伝って、富士見町の大・・・ 永井荷風 「梅雨晴」
・・・旧大名の華族たちが、只虫干をするだけで蔵にしまっている古文書類ももっと天下に役立てられなければならないし、特殊な生産はその代表的な土地にその方面の図書館があってよいだろう。織物に関する図書館は足利とか京都とかに置くという風に。美術館、博物館・・・ 宮本百合子 「実際に役立つ国民の書棚として図書館の改良」
・・・法律学校を出たきりのバルザックばかりは、他の作家たちのようにそれにたよって現実から遁走するためのどんなギリシャ芸術の蘊蓄も古文書に対する教養も持合わせていず、天性の豊富な想像力が活躍するとなれば、それは必ず極く現実的な内容しか持てなかったと・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・国文学者にとって必要な古文書、典籍などは、主として皇室の図書館や貴族の秘蔵にかかっており、常人にはそれを目で見ることさえ容易でない有様である。佐佐木信綱博士が万葉集の仕事を完成した時、些かでも専門の知識をもっている人々が歎賞した第一のことは・・・ 宮本百合子 「文学上の復古的提唱に対して」
出典:青空文庫