・・・ 津浪の恐れのあるのは三陸沿岸だけとは限らない、寛永安政の場合のように、太平洋沿岸の各地を襲うような大がかりなものが、いつかはまた繰返されるであろう。その時にはまた日本の多くの大都市が大規模な地震の活動によって将棋倒しに倒される「非常時・・・ 寺田寅彦 「津浪と人間」
・・・これは南から来る暖かい風がこの境界線から地面を離れて中層へあがりその下へ北から来る寒風がもぐり込んでいるのだという事は、当時各地で飛揚した測風気球の観測からも確かめられている。そのために中層へは南方から暖かい空気が舌を出したような形になって・・・ 寺田寅彦 「凍雨と雨氷」
・・・ 地形の複雑なための二次的影響としては、距離から見ればいくらも離れていない各地方の間に微気候学的な差別の多様性が生じる。ちょっとした山つづきの裏表では日照雨量従ってあらゆる気候要素にかなり著しい相違のあるということはだれも知るとおりであ・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・この意味でまた日本各地の民謡などもこのいわゆるオルフィズムの圏内に入り込むものであるかもしれない。 詩形が短い、言葉数の少ない結果としてその中に含まれた言葉の感覚の強度が強められる。同時にその言葉の内容が特殊な分化と限定を受ける。その分・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・同じ一日じゅうに全国各地数十か所でほとんど同時に山火事を発することもそう珍しくはない。そういう時はたいていきまって著しい不連続線が日本海を縦断して次第に本州に迫って来る際であって同時に全国いったいに気温が急に高まって来るのが通例である。そう・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
・・・―自分では真剣なつもりであっても、専門の学者の立場から見れば結局こういうよりほかはないであろう――にふけっている一方で、かねてから、これも道楽として、心がけている日本楽器の沿革に関する考証は自然に世界各地の楽器の比較に移って行く、その途中で・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
・・・また或は各地の固有に有余不足あらんには互にこれを交易するも可なり。すなわち天与の恩恵にして、耕して食い、製造して用い、交易して便利を達す。人生の所望この外にあるべからず。なんぞ必ずしも区々たる人為の国を分て人為の境界を定むることを須いんや。・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・ 余は行脚的旅行は多少の経験があるが、しかしこの紀行にあるように各地で歓迎などを受ける旅行はまだした事がない。毎日毎日歓迎を受けるのは楽しい者であるか苦しい者であるか余にはわからぬが時としてはうるさい事もあるであろう。けれども一日の旅行・・・ 正岡子規 「徒歩旅行を読む」
・・・是等諸氏はみな信者諸氏と同じく、各自の主義主張の為に、世界各地より集り来った真理の友である。恐らく諸氏の論難は、最痛烈辛辣なものであろう。その愈々鋭利なるほど、愈々公明に我等はこれに答えんと欲する。これ大祭開式の辞、最後糟粕の部分である。祭・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・私の乗っている汽車にも、きっとそういう用事で出て来ている各地の旅客がいただろう。その人々は、この一望果てない青田を見て、そこに白く光った白米の粒々を想像し、価のつり上りを想像し、満足を感じていたかもしれない。けれども、私は、行けども行けども・・・ 宮本百合子 「青田は果なし」
出典:青空文庫