・・・却って唐紙に墨で描いたような上司小剣氏の「石合戦」が現われたりしている。これは何故であろうか。或る種の人々はこれまでの作家の怠慢さにその原因を帰するけれども、果してそれだけのことであろうか。社会性は益々濃厚に各方面から各人の上に輻輳して来て・・・ 宮本百合子 「文学の流れ」
・・・古風な猿蟹合戦、または浦島太郎。「ね、浦島さん、亀の子へのっかって海へ行ったのよ」 浦島太郎は亀にのり 波の上やら海の底 みのえは唄っているうちに稚な心に戻った。鈍いような、鋭いような、一種液体のような幼年時代がみの・・・ 宮本百合子 「未開な風景」
・・・「モダン猿蟹合戦」という絵物語が、みんなをこんなに吸いよせているのです。 猿蟹合戦のはなしを知らないものは子供だっていない。そこをうまくつかまえ、猿を支那にしてある。蟹は日本です。 蟹が日清戦争で遼東半島というデカイ握り飯を貰ったら・・・ 宮本百合子 「「モダン猿蟹合戦」」
・・・あの先年の大合戦の跡でおじゃろうが、跡を取り収める人もなくて……」「女々しいこと。何でおじゃる。思い出しても二方(新田義宗と義興の御手並み、さぞな高氏づらも身戦いをしたろうぞ。あの石浜で追い詰められた時いとう見苦しくあッてじゃ」「ほ・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫