・・・これには自分も同感であった。しかし事実において服装でも食物でも建物でもまたスポーツでもジャズでもチューインガムでも、現在滔々として日本の社会のあるレヴェルを押し流しているものはこういうアメリカ文化であるように見えるのは一体どういう訳のもので・・・ 寺田寅彦 「チューインガム」
・・・花袋君も御同感だろうと思う。 小生は小説を作る男である。そうしてところどころで悪口を云われる男である。自分が悪口を云われる口惜し紛れに他人の悪口を云うように取られては、悪口の功力がないと心得て今日まで謹慎の意を表していた。しかし花袋君の・・・ 夏目漱石 「田山花袋君に答う」
・・・重吉のことは自分も同感であった。それにしても妻によくこんな気のきいた言葉が使えると思って、お前誰かに教わったのかいと、なにも答えないさきに、まず冗談半分の疑いをほのめかしてみた。すると妻は存外まじめきった顔つきで、なにをですと問い返した。開・・・ 夏目漱石 「手紙」
・・・そしてそれが如何にもよく私の今日の心持を言い表しおるものだと痛く同感した。回顧すれば、私の生涯は極めて簡単なものであった。その前半は黒板を前にして坐した、その後半は黒板を後にして立った。黒板に向って一回転をなしたといえば、それで私の伝記は尽・・・ 西田幾多郎 「或教授の退職の辞」
・・・ 巫覡などの事に迷いて神仏を汚し猥に祈る可らずとは我輩も同感なり。凡そ是等の迷は不学無術より起ることなれば、今日男子と女子と比較し孰れか之に迷う者多きやと尋ねて、果して女子に多しとならば、即ち女子に教育少なきが故なり。故に我輩は・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
芥川さんでしたか「私達の生活の側に天国をもって来るとしたら、きっと退屈してしまって、死んでしまいたくなるだろう」って云われたように覚えてますが、それは私も同感に思います。ですから理想などというものは、実現されるまでのその間・・・ 宮本百合子 「愛と平和を理想とする人間生活」
・・・矢田喜美子さんはそれに同感していられます。 けれどもね、みなさま。たとえば、あなたがたが、ことしの新卒業生として、無計画でしょうか。専門学校を出て、就職するとき、職場の選びかたをてあたりばったりした方があるでしょうか。実にきょうの若い真・・・ 宮本百合子 「新しい卒業生の皆さんへ」
・・・ そうして見ますれば、特に源氏物語の訳本がほしいと思っていたわたくし、今晶子さんのこの本を獲て嬉しがるわたくしと同感だという人も、世間に少なくないかも知れません。明治四十五年一月森林太郎・・・ 森鴎外 「『新訳源氏物語』初版の序」
・・・私はその人の人格に同感すればするほど不愉快を感じます。そうしてその苦悩に同情するよりもその無知と卑劣が腹立たしくなります。――で、私は友人と二人でヒドイ言葉を使って彼を罵りました。私の妻は初めから黙って側で編物をしていました。やがて私はだん・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
・・・なぜなら、私はT氏を訪ねて行く若い人たちのまじめに道を求める心持ちに、今なおある種の同感を持ち得るからである。しかしまた私は、愛することを欲しているT氏が好んで残酷を選んだ苦しさをも理解し得るように思う。そうしてT氏をその心持ちに押しつけて・・・ 和辻哲郎 「転向」
出典:青空文庫