・・・ その稲見の当主と云うのは、ちょうど私と同期の法学士で、これが会社にも関係すれば、銀行にも手を出していると云う、まあ仲々の事業家なのです。そんな関係上、私も一二度稲見のために、ある便宜を計ってやった事がありました。その礼心だったのでしょ・・・ 芥川竜之介 「黒衣聖母」
・・・ 譚永年は僕と同期に一高から東大の医科へはいった留学生中の才人だった。「きょうは誰かの出迎いかい?」「うん、誰かの、――誰だと思う?」「僕の出迎いじゃないだろう?」 譚はちょっと口をすぼめ、ひょっとこに近い笑い顔をした。・・・ 芥川竜之介 「湖南の扇」
・・・大隅忠太郎君は、私と大学が同期で、けれども私のように不名誉な落第などはせずに、さっさと卒業して、東京の或る雑誌社に勤めた。人間には、いろいろの癖がある。大隅君には、学生時代から少し威張りたがる癖があった。けれども、それは決して大隅君の本心か・・・ 太宰治 「佳日」
・・・舅の死で目を覚し、万事新にやりなおして世間に出ようと努力したが、同期の友人達には、追いすがる余地もない程時代にとりのこされて仕舞いました。 不平は、彼を感情的ななかなか威張る父親にしました。さびれた、融和しない教区中に友人もなく、家族に・・・ 宮本百合子 「「母の膝の上に」(紹介並短評)」
・・・大学が同期で、学内運動の先頭に立っていた秀才であり、万事目に立つ男だったのが、つかまった。これ迄、何年間ものがれていたのが不思議であった。つかまって、拘置所に入れられて、少くとも五年か七年帰れまいと本人さえ云っていたのに、急に出た。その男の・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・その他の作家たちを今日あらしめているものと同期的な線の上から発していると思わざるを得ない。その点で、作者のたゆみない鞭撻と努力とが生活の全面においてなされることを、よろこびをもって期待するのである。 もし私に煙草がふかせたら、きっとここ・・・ 宮本百合子 「文学における古いもの・新しいもの」
・・・実質賃銀を小売物価との関係で見ると、昭和十二年の春は前年同期に比べてマイナスの二%九である。こうして見ると、軍需工業の景気の呼声が高い割に、この職業別でラジオ増大率の低いことも何か納得出来る気がする。重工業の大工場は今更ラジオとさわぎはしな・・・ 宮本百合子 「「ラジオ黄金時代」の底潮」
・・・ ―――――――――――――――― 綾小路は学習院を秀麿と同期で通過した男である。秀麿は大学に行くのに、綾小路は画かきになると云って、溜池の洋画研究所へ通い始めた。それから秀麿がまだ文科にいるうちに、綾小路は先へ洋行・・・ 森鴎外 「かのように」
出典:青空文庫