・・・例えば、一人の人が往来で洋傘を広げて見ようとすると、同行している隣りの女もきっと洋傘を広げるという。こういう風に一般に或程度まではそうです。往来で空を眺めていると二人立ち三人立つのは訳はなくやる。それで空に何かあるかというと、飛行船が飛んで・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
・・・身体を犯すの病毒はこれを恐るること非常にして、精神を腐敗せしむるの不品行は、世間に同行者の多きがためにとて自らこれを犯して罪を免れんとす。無稽もまた甚だしというべし。故にかの西洋家流が欧米の著書・新聞紙など読みてその陰所の醜を探り、ややもす・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・ これを要するに維新の際、脱走の一挙に失敗したるは、氏が政治上の死にして、たといその肉体の身は死せざるも最早政治上に再生すべからざるものと観念して唯一身を慎み、一は以て同行戦死者の霊を弔してまたその遺族の人々の不幸不平を慰め、また一には・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・この夜また検疫官が来て、下痢症のものは悉く上陸させるというので同行者中にも一人上った者があった。自分も上陸したくてたまらんので同行の人が周旋してくれたが検疫官はどうしても許さぬ。自分の病気の軽くない事は認めて居るが下痢症でない者を上陸させろ・・・ 正岡子規 「病」
・・・ 食べたいものの第一は支那料理の白菜羹汁だ。それからふろふき大根。湯豆腐。 特徴ある随筆の筆者斎藤茂吉氏は覊旅蕨という小品を与えた。 同行二人谷譲次氏は新世界巡礼の途についた。そして Mem タニが女性の適応性によって、キャパン・・・ 宮本百合子 「一九二九年一月――二月」
こんど同行する湯浅芳子さんは七月頃既に旅券が下附されていたのだが、私が行くとも行かぬともはっきり態度が決らなかったので湯浅さんも延び延びになっていたのです。然し私もロシヤへは以前から行って見たい希望を持っていたのです。行く・・・ 宮本百合子 「ロシヤに行く心」
・・・親切な町年寄は、若し取り逃がしてはならぬと云って、盗賊方二人を同行させることにした。町で剣術師範をしている小川某と云うものも、町年寄の話を聞いて、是非その場に立ち会って、場合に依っては助太刀がしたいと申し込んだ。 九郎右衛門、宇平の二人・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・祖母の話を物陰から聞いた事、夜になって床に入ってから、出願を思い立った事、妹まつに打ち明けて勧誘した事、自分で願書を書いた事、長太郎が目をさましたので同行を許し、奉行所の町名を聞いてから、案内をさせた事、奉行所に来て門番と応対し、次いで詰衆・・・ 森鴎外 「最後の一句」
・・・伴奏ともなれば同行ともなる。「銀座であなたにお目にかかったといったら、是非お目にかかりたいというの」「まっぴらだ」「大丈夫よ。まだお金はたくさんあるのだから」「たくさんあったって、使えばなくなるだろう。これからどうするのだ」・・・ 森鴎外 「普請中」
・・・上等、中等の室に入りて、切符しらぶるにも、洋服きたる人とその同行者とは問わずして、日本服のものはもらすことなかりき。また豊野の停車場にては、小荷物預けんといいしに、聞届けがたしと、官員がほしていいしを、痛く責めしに、後には何事をいいても、い・・・ 森鴎外 「みちの記」
出典:青空文庫