・・・ それはこの島の名産の、臭梧桐と云う物じゃぞ。こちらの魚も食うて見るが好い。これも名産の永良部鰻じゃ。あの皿にある白地鳥、――そうそう、あの焼き肉じゃ。――それも都などでは見た事もあるまい。白地鳥と云う物は、背の青い、腹の白い、形は鸛にそっ・・・ 芥川竜之介 「俊寛」
・・・ 二 畠一帯、真桑瓜が名産で、この水あるがためか、巨石の瓜は銀色だと言う……瓜畠がずッと続いて、やがて蓮池になる……それからは皆青田で。 畑のは知らない。実際、水槽に浸したのは、真蒼な西瓜も、黄なる瓜も、颯と・・・ 泉鏡花 「瓜の涙」
・・・ 御存じの方は、武生と言えば、ああ、水のきれいな処かと言われます――この水が鐘を鍛えるのに適するそうで、釜、鍋、庖丁、一切の名産――その昔は、聞えた刀鍛冶も住みました。今も鍛冶屋が軒を並べて、その中に、柳とともに目立つのは旅館であります・・・ 泉鏡花 「雪霊記事」
・・・ この椿岳国の第一の名産たる画はどんな作である乎、先年の椿岳展覧会は一部の好事家間に計画されたので、平生相知る間を集めて展観したのだから、この展覧会で椿岳の画の全部を知る事は出来なかったが、ほぼその画風を窺う事は出来た。 椿岳の画は・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・「この島の名産は、何かね。」「はい、海産物なら、たいていのものが、たくさんとれます。」「そうかね。」 会話が、とぎれる。しばらくして、やおら御質問。「君は、佐渡の生れかね。」「はい。」「内地へ、行って見たいと思う・・・ 太宰治 「佐渡」
・・・千住の名産寒鮒の雀焼に川海老の串焼と今戸名物の甘い甘い柚味噌は、お茶漬の時お妾が大好物のなくてはならぬ品物である。先生は汚らしい桶の蓋を静に取って、下痢した人糞のような色を呈した海鼠の腸をば、杉箸の先ですくい上げると長く糸のようにつながって・・・ 永井荷風 「妾宅」
出典:青空文庫