・・・ 虎の嘯くとよりは、竜の吟ずるがごとき、凄烈悲壮な声であります。 ウオオオオ! 三声を続けて鳴いたと思うと……雪をかついだ、太く逞しい、しかし痩せた、一頭の和犬、むく犬の、耳の青竹をそいだように立ったのが、吹雪の滝を、上の峰から・・・ 泉鏡花 「雪霊続記」
・・・一体詩を吟ずることの好きな人で、裏の僧院でも、夜になると詩を吟ぜられました」「はあ。活きた阿羅漢ですな。その僧院の址はどうなっていますか」「只今もあき家になっておりますが、折り折り夜になると、虎が参って吼えております」「そんなら・・・ 森鴎外 「寒山拾得」
・・・おりおり詩歌など吟ずるを聞くに皆訛れり。おもうにヰルヘルム、ハウフが文に見えたる物学びし猿はかくこそありけめ。唯彼猿はそのむかしを忘れずして、猶亜米利加の山に栖める妻の許へふみおくりしなどいと殊勝に見ゆる節もありしが、この男はおなじ郷の人を・・・ 森鴎外 「みちの記」
出典:青空文庫