・・・痩我慢をして実は堂々たるものの如く装って人の前にもこれを吹聴したのである。感激的教育概念に囚れたる薫化がこういう不正直な痩我慢的な人間を作り出したのである。 さて一方文学を攷察して見まするにこれを大別してローマンチシズム、ナチュラリズム・・・ 夏目漱石 「教育と文芸」
・・・ことにただいま牧君の紹介で漱石君の演説は迂余曲折の妙があるとか何とかいう広告めいた賛辞をちょうだいした後に出て同君の吹聴通りをやろうとするとあたかも迂余曲折の妙を極めるための芸当を御覧に入れるために登壇したようなもので、いやしくもその妙を極・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・ただにそれのみではない、わが専攻する課目のほか、わが担任する授業のほかには天下又一の力を用いるに足るものなきを吹聴し来るのである。吹聴し来るだけならまだいい。はてはあらゆる他の課目を罵倒し去るのである。 かかる行動に出ずる人の中で、相当・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
・・・ 私は職業の性質やら特色についてはじめに一言を費やし、開化の趨勢上その社会に及ぼす影響を述べ、最後に職業と道楽の関係を説き、その末段に道楽的職業というような一種の変体のある事を御吹聴に及んで私などの職業がどの点まで職業でどの点までが道楽・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
・・・徒に我身中の美を吹聴するは、婦人に限らず誰れも慎しむ可きことなり。一 下部あまた召使とも万の事自から辛労を忍て勤ること女の作法也。舅姑の為に衣を縫ひ食を調へ、夫に仕て衣を畳み席を掃き、子を育て汚を洗ひ、常に家の内に居て猥に外へ出・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・ 兄を兄とも思わないで、散々に罵って好い気で居るお金に対して女らしい恨み――何をどうすると云う事も出来ないで居て、只やたらに口惜しい、会う人毎にその悪い事を吹聴する様な恨みが、ムラムラと胸に湧いてお節は栄蔵を叱る様に、「そやから・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・鈴木文史朗はついこの間アメリカへ行ってリーダーズ・ダイジェスト本社の立派なことを日本に吹聴したが、彼はアメリカで何を学び、どう語ることを学んで帰ったというのだろう。戦時中彼はヨーロッパ漫遊をしてナチスと兄弟となっていた日本権力の活躍ぶりを視・・・ 宮本百合子 「鬼畜の言葉」
・・・ 彼女の子供らしい声は猶も吹聴します。「お稽古! お稽古! かあちゃまのお膝で、お稽古!」 * きっしり詰めた三百十八頁の間に、ハッチンスンは、一人の女性の悲劇を書きました。 近代の人間らしく、彼・・・ 宮本百合子 「「母の膝の上に」(紹介並短評)」
・・・ 先頃まで、日本というものは世界でいちばん偉い国だという風に支配者は吹聴しておりました。世界でいちばん偉い国が、自分の文化を世界に誇らねばならないとき、どういう文学を誇ったらいいのでしょう。偉い人たちが考えた結果「源氏物語」は、ともかく・・・ 宮本百合子 「婦人の創造力」
・・・それは主として小説で、その小説は作者の口からも、作者の友達の口からも、自然主義の名を以て吹聴せられた。Zola が Le Roman expエクスペリマンタル で発表したような自然主義と同じだとは云われないが、また同じでないとも云われない。・・・ 森鴎外 「沈黙の塔」
出典:青空文庫