・・・もっとも夫を苦しめないように、彼女も達雄を愛していることだけは告白せずにしまうのですが。 主筆 それから決闘にでもなるのですか? 保吉 いや、ただ夫は達雄の来た時に冷かに訪問を謝絶するのです。達雄は黙然と唇を噛んだまま、ピアノばかり・・・ 芥川竜之介 「或恋愛小説」
・・・この聖徒も自殺未遂者だったことは聖徒自身告白しています。」 僕はちょっと憂鬱になり、次の龕へ目をやりました。次の龕にある半身像は口髭の太い独逸人です。「これはツァラトストラの詩人ニイチェです。その聖徒は聖徒自身の造った超人に救いを求・・・ 芥川竜之介 「河童」
・・・ 告白 完全に自己を告白することは何人にも出来ることではない。同時に又自己を告白せずには如何なる表現も出来るものではない。 ルッソオは告白を好んだ人である。しかし赤裸々の彼自身は懺悔録の中にも発見出来ない。メリメは告・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・私は自分自身の内部生活を反省してみるごとにこの感を深くするのを告白せざるをえない。 かかる場合私の取りうる立場は二つよりない。一つは第三階級に踏みとどまって、その生活者たるか、一つは第四階級に投じて融け込もうと勉めるか。衝動の醇化という・・・ 有島武郎 「想片」
・・・安価なる告白とか、空想上の懐疑とかいう批評のある所以である。 田中喜一氏は、そういう現代人の性急なる心を見て、極めて恐るべき笑い方をした。曰く、「あらゆる行為の根底であり、あらゆる思索の方針である智識を有せざる彼等文芸家が、少しでも事を・・・ 石川啄木 「性急な思想」
・・・淫蕩な事実を描く、肉欲を書き、人間の醜い部分と、そして、自分達、即ちブルジョア階級がいかにして快楽を求めつゝあるかを告白する。しかし、余程の低劣な作家にあらざる限り、これ等の事実を提供して、読者に媚びようとする者は恐らくあるまい。社会の一般・・・ 小川未明 「何を作品に求むべきか」
・・・それをこの少年から告白させるのはおもしろいと思ったので、彼女はその翌日、例のごとく並んで歩いた時、「あんた私が好きやろ」 しかし、「嫌いやったら、いっしょに歩けしまへん」 と、期待せぬ巧妙な返事にしてやられた。「けったい・・・ 織田作之助 「雨」
・・・と大衆文学の作者がある座談会で純文学の作家に告白したそうだが、純文学大衆文学を通じて、果して日本の文学に「アラビヤン・ナイト」や「デカメロン」を以てはじまる小説本来の面白さがあったとでもいうのか。脂っこい小説に飽いてお茶漬け小説でも書きたく・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・叫ぶことにも照れるが、しみじみした情緒にも照れる。告白も照れくさい。それが僕らのジェネレーションですよ」 私はしどろもどろの詭弁を弄していたのだ。「青春の逆説」とは不潔ないいわけであった。若さのない作品しか書けぬ自分を時代のせいにし、ジ・・・ 織田作之助 「世相」
・・・といった頼山陽の言は彼のすなおな告白であったに相違ない。 つとめて書を読み、しかもそれが他人の生と労作からの所産であって、自分のそれは別になければならぬことを自覚し、他人の生にあずかり、その寄与をすなおに受けつつ、しかも自らの目をもって・・・ 倉田百三 「学生と読書」
出典:青空文庫